■2014年10月19日 第7回 きのこ・りんご 〜 講演「シイタケとマツタケの歴史と栽培」 (独)森林総合研究所 きのこ・微生物研究領域 根田 仁氏
◇きのこの生産について
  • きのこの生産は、1960年ぐらいから増えてきました。きのこの生産は右肩上がりで、成長産業のように見えますが、全体の生産額は横ばいです。

  • 昔はシイタケを生産していたぐらいで、エノキタケ、マイタケ、エリンギといったその他のきのこは、もっと食べてもらおうと、その後、新しく栽培が始まったものです。

  • きのこの生産量は年々増えていますが、価格は横ばい、または下降しています。 エノキタケは、最初はある程度の値段だったのが、最近はぐっと下がりました。昔は農家の副業のような形で生産していたのが、大企業が入り、生産規模を拡大して、値段が下がるとコストを下げてさらに大量生産し、また値段が下がるという悪循環に陥り、スーパーの目玉商品にもなっています。
(独)森林総合研究所 きのこ・微生物研究領域
根田 仁氏
◇シイタケの歴史
  • シイタケは、日本の歴史上、鎌倉時代に初めて文献に登場します。曹洞宗の開祖である道元禅師が宋に留学した際、年老いたお坊さんがシイタケを干しているのを見て、聞けば、かなり位の高い人だったそうです。道元が、「なぜそんな偉い方がシイタケを干しているのですか」とたずねると、「普段の生活や、こういう仕事をすることも大事な修業だ」といわれた、という話があります。

  • 日本はシイタケの発生に適しています。昔は自生しているシイタケを採って食べていました。鎌倉時代には、それを干しシイタケにして、中国に輸出しており、室町時代、安土桃山時代になると、旨味が出るシイタケは日本料理に欠かせないものになりました。

  • 江戸時代になると、シイタケの栽培方法が開発されました。いまと比べるとかなり原始的ですが、ナタ目式栽培といって、秋に木を切り、ナタで傷をつけて、シイタケの胞子がつきやすいようにして、生育に適した環境におく、という方法がとられるようになりました。シイタケ栽培は大分県が発祥という説もあるようですが、実際は伊豆で確立したといわれています。江戸時代には、シイタケの生産量が増え、藩によっては生産・販売に力を入れるところもありました。

  • 明治時代になると、ようやくシイタケがどういう生き物なのかがわかってきて、純粋培養して、コナラ・クヌギなどの原木に植えるという方法が開発されました。一般に広まったのは戦後、より簡単に栽培できるようになってからです。時代とともに、炭や薪を作っていた山村の人の仕事がなくなり、シイタケ栽培に切り替えたこともあって、1960年頃から生産量が増加していきました。
◇シイタケの原木栽培と菌床栽培
  • きのこはカビの仲間です。細胞が糸のような細長い形をしており、その細胞が木材の中に伸び、木を分解して栄養分にしています。

  • シイタケの原木栽培は、東日本はコナラ、西日本はクヌギの木を使うことが多く、秋に木を切って、翌年の春にシイタケの種菌を植えて育てます。

  • シイタケは、春と秋にきのこを作ります。傘の裏のひだに胞子を作り、それが風に乗って遠くに飛んで子孫を残します。

  • 干しシイタケは、春と秋に発生したきのこを採って乾燥させたものです。生シイタケは一年中、夏でも出るように、ほだ木を水に浸けます。

  • 菌床栽培とは、おがくずと米糠ふすまでシイタケを作る方法で、いま、日本で作っている生シイタケの8割は菌床栽培です。原木は重く、農家の方が高齢化していることもあって、仕事が大変です。また、原木栽培は山の中での作業ですが、菌床栽培は家の近くに施設を作ればできるので、最近は菌床が主流になりました。

  • シイタケの菌床栽培は、おがくずと米糠ふすまを混ぜ、熱や圧力をかけて滅菌し、シイタケの種菌を植えて、20℃くらいで培養します。発生をコントロールできるので、1年中計画的に栽培できます。

  • 私は個人的に、菌床より原木のシイタケのほうがおいしいと思いますが、菌床栽培のほうが味や香りにくせがなく食べやすい、という人もいるようです。
◇シイタケの生産量と価格など
  • 干しシイタケの生産量は、1980年くらいまでは増えていたのですが、その後、年々減っています。かなりの部分が輸出されていましたが、中国でシイタケ栽培が増え、安価なので、シェアを奪われ、日本は輸出が減りました。ただ、日本の干しシイタケは品質がいいので、いまでも需要はあります。日本からは、いま、最高級品の干しシイタケをわずかに輸出しているだけです。また、日本人が食べている干しシイタケの2/3は中国からの輸入品です。

  • 生シイタケの生産量も、1980年くらいまでは伸びていたのですが、その後は横ばいという状況です。

  • 国内価格の推移を見ると、干しシイタケは、1980年くらいまではよかったのですが、中国での栽培が増えたことによって下がってしまいました。生シイタケも横ばいで、若干下がり気味です。

  • 生シイタケは、一時、中国からの輸入がかなりの割合を占めていたのですが、安全性の問題などもあり、最近は減っています。

  • シイタケには多くの品種があり、DNAで識別することができます。日本と中国で栽培されているシイタケは品種が違うので、調べれば分かります。

  • シイタケは、東アジア、ニュージーランドにも分布しています。遺伝的に幅があり、今後、品種改良の素材としても使えるかもしれません。いままでの品種改良は、形がいい、たくさん採れる、病気に強い、という方向でしたが、これからは、味や香りがいい、という方向になるだろうと思っています。
◇マツタケの歴史
  • マツタケは古くから日本にあるきのこで、万葉集に「高松のこの峯も狭(せ)に笠立てて盈(み)ち盛りたる秋の香のよさ」と、マツタケを詠んだ歌があります。万葉集以外にもよく登場します。

  • 江戸時代のマツタケ狩りの風景が書物に残されており、ござを広げて宴会をしている絵が描かれているなど、マツタケ狩りが日本人のレクリエーションのひとつだったことがうかがえます。
◇マツタケの生産量と価格など
  • シイタケとマツタケの生産量の推移を見ると、戦前はどちらも同じくらいの量でしたが、マツタケはどんどん下がり、栽培技術が発達したシイタケは伸びていきました。

  • マツタケは、戦前は1万トンほどだったのが、いまはゼロに近い状況です。採った人が自分で食べていることが多く、正確な量がわかりにくいのですが、市場に出ている量は10〜20トンで、50トンを超す年はほとんどありません。

  • マツタケの国内価格は、1995年頃が最も高く、中国などから安いマツタケが入るようになったいまは、下がっています。

  • 2012年のデータによると、市場に出ているマツタケの99%は輸入物、国産は1%に過ぎません。

  • 輸入国別に見ると、大部分が中国で、その他、トルコ、アメリカ、カナダ、モロッコ、韓国、メキシコ、ブータンなど、世界中から輸入しています。どこの国のマツタケかは、DNAで判別する技術があります。

  • マツタケの生産量が減った理由は、栽培できないこと、松林自体が減ったこと、松林の環境が変化してマツタケが生育しにくくなったこと、安いマツタケが輸入されるようになったことなど、さまざまな理由が考えられます。
◇マツタケの栽培
  • マツタケもカビの仲間ですが、シイタケと違うのは、菌根菌という特殊な生態であることです。樹木の根に共生し、生きている木から栄養をもらいます。この状況を人工的に創り出すのが難しいので、マツタケの栽培は成功していません。

  • マツタケを栽培するには、松林を昔のような状況にして、マツタケの生育に適した環境に変える、という方法があります。日本国内で何カ所かやっているところはありますが、マツタケを出すためだけに松林を管理するのではコストがかかるので、採算を考えると難しい面があります。

  • 小さな植木鉢などに松の木を植え、マツタケの菌を入れる「盆栽マツタケ」もありますが、まだ実験途中です。もしかするとうまくいくかもしれません。

  • エノキタケのように瓶や袋で栽培する方法もあります。寒天、土壌などの培地にマツタケが利用できる物質を入れれば、むある程度は生育します。小さなマツタケができた例はありますが、いまから40年前に一回研究者が成功しただけです。でも、不可能ではないと思います。

  • われわれは、マツタケが松以外の木にも出るのではないか、と考え、オオシマザクラにマツタケの菌を植えました。つくことはつくのですが、それを山に持っていったときにどうなるか、まだ可能性でとまっている段階です。サクラのほか、シラカバ、ポプラなどにも人工的にマツタケの菌をつけることはできます。なんとか栽培したいと考えていますが、5年、10年という単位では難しいかもしれません。

  • われわれは、マツタケを遺伝子から調べることも行っています。ほぼ解読は終わり、森林総合研究所のホームページで「マツタケゲノム・データベース」として公開を始めたところです。
◇質疑応答より

    Q:きのこに農薬のようなものを使うことがあるのですが?
    A:通常は使いません。きのこは腐りやすいので、普通は収穫してすぐ出荷しますが、海外からだと日数がかかるので、収穫後にポストハーベストで使用される例が海外のきのこでありました。

    Q:シイタケはシーズンを外れると、傘が薄いものが多いと思うのですが?
    A:発生時の気温や湿度で変わります。春先、低温で乾いた環境で原木から出るシイタケは肉厚です。菌床栽培は同じような環境で作っているので、季節により厚みは変わりません。菌床栽培のシイタケは、原木栽培に比べると薄いものが多いと思います。

    Q:マツタケ菌をサクラの木に植えたら、木の成長もよくなったということですが、果樹苗の開発などに使える可能性はあるのでしょうか?
    A:菌根は、植物にとっても大事な働きがあるといわれています。菌が根の表面をおおって、菌根を作ると、植物は土壌中から水やミネラルなどを吸収する働きが高くなります。松の木は菌根がないと大きくなれない、という人もいます。栗の木に殺菌剤をまいたら、菌根菌がやられ、木の生長が悪くなったという話もあります。果樹、造園業でも、最近はそういうことも考慮されていると思います。

    Q:菌床栽培の干しシイタケというのはあるのですか?
    A:日本ではあまり作っていません。中国ではほとんど原木栽培はしていないので、菌床で作ったものを干しシイタケにして輸出しています。

    Q:きのこの賢い保存方法は?
    A:きのこは冷凍保存ができます。干してもいいのですが、乾燥させておいしくなるのはシイタケぐらいです。

    Q:マツタケに虫が入っていたら?
    A:昔ながらの塩水に浸ける方法がいいと思います。マツタケは野生のものを採取しているので、少しくらいなら虫が入っていても仕方ない、と思ったほうがいいかもしれません。

    Q:赤や黄色のきのこの色は自然のもの?
    A:はい、自然の色です。よく、赤いきのこは毒だとかいいますが、関係ありません。毒きのこに共通の特徴はありませんので、それぞれ種類ごとに覚えるしかありません。

    Q:マイタケは、納豆菌に弱いと聞いたのですが?
    A:種類によって、強い、弱いはありますが、きのこはだいたいどれも納豆菌に弱いです。おがくずの培地にほかのバクテリアがつくと負けてしまいます。

    Q:トリュフ、ポルチーニは日本にもあるのですか?
    A:トリュフもポルチーニも菌根性のきのこです。トリュフは日本でも探せばあります。ポルチーニは、近縁種があります。

    Q:食べられるきのこは全体の何%くらい?
    A:数はわかりませんが、秋にきのこ狩りをすると、全体の1〜2割は食べられるきのこです。食べられるのかどうか、わからないものも多数あります。

 
 

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