■2014年5月18日 第2回 豆類・小玉すいか 〜 講演「豆のはなし」 (株)サカタのタネ 野菜統括部 山根哲哉氏
◇はじめに
  • 今日は、主に、いんげんまめ、そらまめ、えんどうまめ、えだまめの話をしますが、食べる豆類の分類については、(公財)日本豆類協会のホームページに表が載っていますので、参考になさってください。

  • 豆類の中には、ルピナス、藤など、食べられないものもあります。からすのえんどう、落花生、花札にも登場する萩も豆の仲間です。
(株)サカタのタネ 野菜統括部 山根哲哉氏
◇マメ科の植物
  • マメ科植物の可食部は、豆やそのまわりのさやです。豆を完熟させてしっかり乾かすとタネになります。えだまめは若採りするので青い色をしていますが、完熟すると大豆になります。つまり、われわれは人間はタネを食すわけで、タネは生命の源です。豆類は非常にパワーのある食物ではないか、といえます。

  • マメ科の植物は、大別すると、低温性と高温性のものに分けられます。低温性は、寒さに強く暑さに弱い。高温性は、暑さに強く寒さに弱い性質です。こういった性質があるので、豆には旬が生ずるわけです。

  • 豆はF1化が実現していません。というのは、豆の花は咲いたときには受粉しており、交配済みだからです。メンデルが遺伝子の法則で実験に使用したのは、ほかの花粉がかかりにくいので使いやすかったためだと考えられています。
◇そらまめについて
  • そらまめは低温性で、寒さには非常に強いのですが、暑さには弱いという性質があります。

  • 花芽分化のメカニズムは、種子バーナリーゼイションといって、タネの状態で寒さにあたると、花芽をつける性質を持っています。一定の低温を経過しないと花芽分化しません。5℃以下、4週間の低温で花芽分化します。

  • 関東などで行われている普通の作型は、10月にタネをまきます。いわゆる「お歯黒」の部分を下に向けて植えると、そこから上に向かって芽が出て、下に根が出てきます。植えたときはまだ温度があるので、しっかり根を伸ばすのですが、そのうち温度が下がり、寒くなると葉先が黒く枯れます。1〜2月はじーっと寒さを浴びて、花芽をつける準備をします。3〜4月は、株元から5〜6本枝が出てきて、それに花が咲いて実をつけます。これが一般的なそらまめの作型です。

  • 早くまいて早く採る作型もあります。千葉県、茨城県などでは、露地で、タネさえまけばできるという作型です。鹿児島県では、7月にタネをまきます。ただし、寒さが来ないと花芽をつけないので、芽が出てきたところで冷蔵庫に入れ、低温にあてて花芽をつける準備をさせます。こうして、11月末頃から採ります。ここでは、1〜2本枝が上に出てきたら、それを誘引し、1節に1花だけにして3粒のさやを育てるようにしています。

  • そらまめの旬は5〜6月で、入荷も多くなります。7〜8月、ビールのつまみにそらまめを食べたい時期に、入荷は減ってしまいます。6月末頃から、宮城県の仙台、秋田県、青森県の奥入瀬などから出てきますが、単価は上がります。サカタのタネは、低温にあたらなくても花芽をつける品種を開発しました。
◇えんどうまめについて
  • えんどうは低温性の豆で、低温にあたらないと花芽をつけない性質があります。寒さに強く、マイナス5℃まで耐えることができます。それを下回ると枯れてしまいます。

  • ツタンカーメンの墓からえんどうのタネが見つかった、というニュースがありました。豆は短命種子で保管はきかないのですが、適度な水分が保たれていたようで、まいてみたら奇跡的に赤いさやのえんどうができた。それを増やして、ツタンカーメンの豆として販売されています。

  • えんどうまめの品種には、 つるありとつるなしがあります。つるありは、つるが上に伸びていき、誘引といって、支柱などに結びつけて上に導いていきます。つるなしは、枝分かれが多く、上に伸びにくい。下のほうから花芽をつけやすい性質があり、いっせいに収穫期を迎え、ピタッと収穫が終わる品種です。

  • さやえんどうは、粒がふくらむ前の未熟な状態で食べるものです。完熟させると、スナックえんどうやグリーンピースのような形になり、われわれ種苗業者はそれを乾燥させてタネを採ります。「絹さや」とも呼ばれるのは、風が吹いてさやがこすれる音がきぬずれのようだというところからきています。

  • 「スナックえんどう」はサカタのタネの商品名で、市場の統計では「スナップえんどう」です。アメリカから導入されたもので、アメリカでは子どものおやつなどに生で食べる、と聞きました。グリーンピースはさやがかたく、生では苦くて食べられませんが、スナックえんどうは甘みがあって、生でも食べられます。サッとゆでると非常においしい。家庭菜園用としてもよく売れており、バイヤーが選ぶ人気野菜で常に上位をキープする注目度の高い野菜です。群馬県の高冷地で時期をずらして作付けしてもらっています。

  • 実えんどうは、グリーンピース、うすいえんどうなど、実だけを食べるものです。

  • さとうえんどうは、スナップえんどう同様、さやごと食べられる甘いえんどうです。

  • えんどうは、5〜6月に収穫が増えます。暑さに弱いので、その先はやや減ってきます。

  • えんどうまめには、赤花と白花があります。赤花えんどうは、おすましなどに入れたとき、煮汁が濁らないそうです。

  • えんどうは、スイートピーとよく似ていて間違いやすい。スイートピーは毒性を持っているので、えんどうまめとスイートピーは一緒に植えてはいけません。
◇いんげんまめについて
  • いんげんまめとえだまめは高温性で、5℃を下回ると枯れてしまいます。暑さには強く、35〜40℃でも耐えますが、温度が上がりすぎると、花粉の稔性が低下して花が咲いても実がならないことがあります。適温は15〜20度です。

  • いんげんには、さやいんげん、平ざやいんげん、べにばないんげんなどの種類があります。平ざやいんげんの主なものは、「モロッコ」(タキイ種苗)、「ジャンビーノ」(サカタのタネ)など。「花豆」はべにばないんげんで、群馬県や長野県で夏場に作っており、甘く煮たものを瓶詰めなどにして販売されています。

  • 三尺ささげ、一六ささげ、あきしまささげなどは、マメ科ササゲ属に分類されます。小豆はアズキ種で、ケツルアズキ種の中に、もやしの「ブラックマッペ」があります。

  • つるありとつるなしがあり、タネまき後早く花が咲き、実をならせ始めるのがつるなしで、つるありは少し遅く花芽をつけます。

  • つるありは、つるを上に伸ばして、その節々に豆ができます。つるなしは、60〜70センチで高さが止まります。分枝が多く、その節々に花が咲き、いっせいにさやがつきます。つるなしの収穫は常にかがんで作業しなければならないので、根っこごと抜いて収穫・調整する農家もあります。えんどうと違い、いんげんまめは、つるありとつるなしでは食味が違います。収穫期間はつるありが30〜60日、つるなしは約2週間で終わります。

  • つるありの代表的な品種は、「ケンタッキーワンダー」、「ステイヤー」、「ブルーレイク」など。いずれもF1ではなく固定種です。病気にかからなかった株や収量性の高かった株などを選抜して育種します。曲がりざやで長め、表面はややデコボコしており、「どじょういんげん」とも呼ばれます。つるありは、やわらかい品種が多く、関東で好まれるタイプです。

  • つるなしの代表的な品種は、「キセラ」、「レグルス」、「ネリナ」など。真っ直ぐの丸ざやでデコボコはありません。ややかたい品種が多く、噛むとキュッキュッという歯触りがあり、それが嫌われることがあります。関西では、「キセラ」のようなしっかりとした食感が好まれる、といわれています。外食産業ではカットせず使える短いタイプが好まれています。

  • 「サクサク王子」はサカタのタネが開発したつるなし品種です。やわらかい食感が特徴で、キュッキュッという歯触りがありません。1〜2分、サッとゆでれば食べられます。ハンバーグなどの付け合わせとしてだけでなく、サラダなどでたくさん食べてほしい、という思いで育種したものです。

  • いんげんまめは、オマーン産以外は、夏の暑いときに出荷のピークが来ます。
◇えだまめについて
  • えだまめは、マメ科ダイズ属。だいずを若採りして食べるのがえだまめです。古代中国では、若採りした豆には毒性があると考えられており、必ず発酵させてから食べたそうです。いま、和食ブームで、えだまめは、海外でも「EDAMAME」で認識されています。

  • 花芽分化は、気温や日長によります。茶豆類などの秋ダイズ型は日長型で、6月末以降、日が短くなるのを感知して花芽をつけます。夏ダイズ型は温度によります。

  • えだまめには、白毛と茶毛があります。「毛豆」は青森県、「秘伝」は岩手県の茶毛の晩生種です。茶毛のほうが甘みやコクがあっておいしいのですが、見た目が悪いため、茶毛の食味を入れた白毛の品種が育成されるようになりました。

  • 茶豆は、茶毛の一種で、完熟すると豆が茶色くなるものです。「だだちゃ豆」、「黒崎茶豆」、「肴豆」など、すべて晩生で、秋に向かって短日になると採れる性質が強く、関東では栽培が困難といわれます。そこで、当社の「おつな姫」や、他社の「湯あがり娘」など、青豆に茶豆の風味を取り込む育種をしています。「湯あがり娘」は晩生の性質が残っていますが、「おつな姫」は2〜3月にハウスでまけば5〜6月に採れる品種です。

  • 「丹波黒」などの黒豆のえだまめは、茶豆のような風味はありませんが、甘みがあっておいしい。「夏の装い」などの品種があります。

  • 茶豆の独特の香りは、東北ではあたりまえです。関東に茶豆が入り始めた20年以上前は、独特の風味がなかなか受け入れられなかったそうです。いまでも数%は煮汁の濁りやにおいを敬遠する人がいます。関西は、においを嫌がる人が多い。関西や中京を担当しているセリ人さんには、茶豆風味の青豆でも扱えない、といいます。ただ、だいぶ定着しつつあり、徳島県などで「おつな姫」を作り始めていますし、いずれは食べてもらえるようになるのではないか、と思っています。

  • えだまめの作型には、ハウス加温、無加温のハウス、トンネル、マルチ、露地、抑制栽培などがあります。

  • えだまめは季節性がある作物で、入荷が少ない時期には、冷凍物が使われます。
◇豆の毒性について
  • 豆類には、サポニンという成分が含まれています。抗がん作用、コレステロール低下作用などがあるといわれ、漢方薬に使われますが、過剰摂取すると、細胞膜や赤血球を破壊するといわれます。サポニンは水溶性なので、ゆでればお湯の中に流れ出します。

  • レクチンという成分には、免疫活性化といういい作用もありますが、下痢や嘔吐といった症状を引き起こすことがあります。以前、白インゲン豆ダイエットがテレビで紹介され、健康被害が出て問題になりましたが、十分に加熱すれば性質が変化し、毒性はなくなります。
◇おわりに
  • 豆は季節性がある作物ですが、産地では、要望に応じて、作型を工夫しながら、可能性を広げています。生命の源である種子を食べるというパワフルな食物ですから、お客さまにぜひ旬の豆類をおすすめして、豆の食文化を活性化していただけたら、と思います。
◇質疑応答より

    Q:F1がないというお話でしたが、茶豆風味のえだまめはどうやって作ったのですか?
    A:強引に掛け合わせることはできるので、その中から選抜をします。雑種を作れないことはないのですが、完全に固定化できていないため、それをF1とはいいません。

    Q:「ファーベ」は普通のソラマメと品種が違うだけでしょうか?
    A:フランスなどで食べられているようなので、向こうの品種だと思います。それほど特性が違うわけではなく、小粒なので食べやすい、ということではないでしょうか。

    Q:関東エリアで生産者に人気がある豆の品種は何ですか?
    A:消費者には、茶豆風味のえだまめや、豆に甘みがあるもの。農家には、例えば、「サッポロミドリ」、「サヤムスメ」など、おおざやで収量がいいものが人気ですが、品種名で店頭に並ぶことは少ないと思います。

    Q:サポニンはほとんどの豆に含まれているのでしょうか?
    A:量に差はあると思いますが、ほとんどの豆に含まれていると思います。

    Q:大豆にあまり国産がないのは、えだまめとして食べる習慣があるからなのでしょうか?
    A:種苗業者は、大豆として採る豆の販売はできません。われわれはえだまめとして食べるものの種子しか販売していません。

    Q:売っている大豆はタネになるのでしょうか?
    A:炒ってないものであれば、まけば芽は出てきます。

 
 

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