■2014年8月24日 第5回 なす・ぶどう 〜 講演「なすについて」 星野直治氏
◇三鷹でのなすの栽培について
  • 私はいま東京・三鷹でなすを作っています。以前は、夏野菜は、なす、きゅうり、トマトを作っていました。ところが、輸送、保存手段等の発達により、遠くの大産地からモノが来るので、きゅうり、トマトはやめて、なすに力を入れるようになりました。なすは特に鮮度、ツヤが大事です。地方のなすに負けないいいものを作り、選別をしっかりとすれば、それなりの価格で市場が買ってくれます。
星野直治氏
  • なすは連作障害が起きます。都市農業では、どうしても同じ畑で作らなければならないので、接ぎ木栽培をしています。台木はトルバムビガーという野生種で、それを栽培しても小さな実しかなりませんが、根が高温乾燥に強いので、その根を利用して「千黒2号」を接ぎ木します。

  • 1月にビニールハウスの中でタネを蒔き、3月の節句頃に接ぎ木をし、4月下旬に畑に植えます。5月10日頃にトンネルを外して支柱を立て、5月末から収穫が始まり、11月始めの霜が降りる頃まで続ける、という作型です。

  • 今年は6月24日に30分くらいひょうが降りました。庭が真っ白になるほどで、大きいものはサクランボ大のひょうがありました。葉はボロボロで、なすにも穴が空いたりして、どうしようもなくなってしまったのですが、幸い、援農ボランティアのみなさんが翌日来て、傷ついたなすを全部落として、早く新芽が出るように手伝ってくれ、1ヶ月後からまた採れるようになりました。

  • なすは、いまの時期だと、花が咲いてから17〜18日で収穫できるサイズになります。うちのそばの市民農園のなすを見ていると、収穫できるまでに25〜30日かかっています。そうすると、外観はいいのですが、中をみるとタネが熟して黒くなったりします。フワッとしたいいなすを作るには、接ぎ木をしたり、定期的に肥料をやったりする必要があります。

  • プランターでの栽培は、いまの時期は暑さでプランターそのものが温まってしまうので、いくら水やりをしても、年中風呂に入っているような状態になります。下に木や段ボールを置くなどして、地温が上がらないようにするのが長く育てるコツです。

  • 昔は早く植え、早く収穫・出荷していい値段で売るやり方だったのですが、いまは一年中出せますから、できるだけ樹が長持ちするようにしています。昔は9月のお彼岸で終わり、いまは11月の文化の日の頃までとり続けるような栽培方法に変わっています。

  • 葉が3枚出ると、花が咲いてなすがなります。収穫するとき、葉を1枚残してあとは切ります。こうすると、葉の付け根から新芽が出て、絶えず本線のそば、力強い枝にいいなすがなります。

  • いちばん問題なのは、葉ダニ、アブラムシなどの病害虫です。畑のまわりは住宅なので、できるだけ消毒の回数を減らす努力が必要です。暑いのに手袋をして長靴をはき、長袖を着て消毒するのでは、私もまいってしまいます。木酢液、にがりといった、人間でいえば漢方薬のようなものを使って、マスクも手袋もせず、軽装で作業をしています。

  • いま、私のところでは、なす2500本を市場出荷しています。市場には全国からなすが集まるので、よりいいものを作らないといけません。ですから、それなりの努力、工夫、管理が必要になります。

  • 選別を厳しくすることがとても大事で、A品、B品、C品をきちんと選別して出荷しています。例えば、なすにちょっと傷があって、A品かB品で悩んだときは、即B品に入れます。そうすると、A品とB品の違いはほとんどなくなります。A品とB品の値段の差が倍もあるときに、傷のあるものをA品に入れてしまうと、悪循環でだんだんダメになってしまいます。

  • なすは、乾燥したり、肥料が不足したりすると、めしべが短くなって花粉がつかず、実にならないで落ちてしまいます。水分も肥料分もないのに実がなっては、自分の身がもたないので、ならないようにしているわけです。「親の意見となすびの花は万に一つも無駄がない」といいますが、環境が悪くなれば、花が咲いても実はなりません。ですから、花を見て、めしべがおしべより長ければ、健康に育っている証拠です。

  • うちでは、出荷の際、鮮度パックという袋を使っています。東京近郊で栽培しているのに必要ないと思われるかもしれませんが、八百屋さんからの評判がいいので、使っています。

  • 市場はベジフル練馬で、そこまで13キロ、毎日、休みなく、なすを持って行きます。こういうものを持ってきて、と言われれば、きちんとそれに応えているので、市場側もそれなりの価格で買ってくれています。

  • 通常、なすはM、L中心ですが、うちでは、2L、3Lが中心です。大きいほうが値がいいので、今日Lで採るより、明日2Lにしてから採るほうがいいわけです。ただ、これから秋になると小ぶりのなすが求められるので、市場の要望に応えられるような出荷をしています。

  • 今日は、江戸東京の伝統野菜、「寺島なす」を持ってきました。いまのなすは品種改良を繰り返して、やわらかくツヤもよくなっていますが、「寺島なす」は、色がぼけやすく、実はかたく、しっかりしているのが特徴です。昔は冷蔵庫やラップ、ビニール袋などがなかったので、新聞紙に包んで、勝手口のすみに置いておいたのですが、日持ちがいいので平気でした。いまのやわらかいなすは、そんなことをしたらすぐにしなびてしまいます。そういう意味では、「寺島なす」は、昔の条件に合っていたなすだと思います。

  • 今日の八百屋塾には、何種類ものなすが並んでいますが、やはり、適地適作で、例えば、私が「賀茂なす」を作ってみたいと思っても、地域の気象条件や環境に育まれるものなので、その地方のなすと同じ味にはできません。
 
星野さんの圃場-1
星野さんの圃場-2
星野さんの圃場-3
選果場
千黒2号
寺島なす
◇質疑応答より

    Q:夏場はなすを作られているとのことですが、その他の時期は何を作っているのですか?
    A:5月下旬〜11月始めはなすを市場出荷しています。その他、夏場はトマト、きゅうり、えだまめ、トウモロコシ、秋はカリフラワー、ブロッコリーなど、さまざまなものを栽培しています。

    Q:長雨のあとはなすが腐ったり、色が薄くなったりしますが、過剰な水分に弱いということでしょうか?
    A:色が薄いのは日照不足です。また、なすがあまり育たない時期に雨がどっと降ると、実が割れてしまいます。皮の成長と、下から吸い上げる水分のバランスが崩れて、パンクしてしまうわけです。水分を多く含むので、傷みやすい。同じなすでも、乾燥している場合は、大きくても軽くなります。

    Q:星野さんが作っているなすの品種名は? また、いまは漬け物ではなく炒め物に使うのが主なので、大きいなすが売れる傾向だと思うのですが、どうなのでしょうか?
    A:品種は、「千黒2号」。一般には「千両2号」として知られている、卵形のごく普通のなすです。種苗会社によって名前が違います。一般的には大きいなすが売れますが、暑い夏場は、炒め物をしないので、小さめのほうがいい、という市場の人もいます。大きいなすがいいといっても、25日も30日もかかったものはダメで、17〜18日か、せいぜい20日ぐらいで大きくなったなすがおいしい。

    Q:星野さんのお気に入りのなす料理を教えてください。
    A:素揚げしたなすをめんつゆに漬けて、かつおぶしをかけて食べる「なすの揚げ浸し」がいちばんおいしい。この調理法だと、実がかたい「寺島なす」でもおいしく食べられます。また、酢飯の上に素揚げしたなすをのせて食べる「なすの寿司」も、みなさんに好評です。

    Q:なすの保存についてですが、フィルムと紫色の紙で包まれているものとの違いは?
    A:紫色の袋は見た目をよくするためで、箱の内側に紫色の紙があると、多少、なすの色が薄くても、よく見えます。蒸れるのを防止したければ、紙に包んでから鮮度パックに入れるといいと思います。

    Q:「寺島なす」について詳しく教えてください。
    A:江戸野菜研究会の大竹道茂さんが、7〜8年前に、「寺島なす」というなすが過去にあったと知って、筑波のジーンバンクでタネを200粒もらってきました。それを向島の寺島小学校で育ててもらうことになりましたが、素人が栽培するのは難しいので、私が育てて苗にして持っていきました。固定種で、タネは自家採取できますから、徐々にタネを増やしていきました。寺島小学校だけでなく、地域の商店街のみなさんも一生懸命取り組みをしてくれています。

    Q:なすの育て方について、這わせていくものと、そうでないものとの違いは??
    A:支柱を立てるほうは、台風などにも比較的強く、A品率が高くなります。なるべく本線に近いところにならせているので、17〜18日で大きくなります。本線から遠いと、大きくなるまでに時間がかかって、タネが黒く、かたくなり、B品になります。絶えず若い枝にならせることで、A品率を高めるわけです。コンスタントに採れるので、市場出荷にはいいのですが、苗がたくさんいるので、苗を種苗会社から買っている場合は難しいのではないでしょうか。うちでは、苗は自分で作っています。

    Q:なすは何段目まで採れるのですか?
    A:トマトのように「何段目」というのはなくて、高さでいうと2メートル弱くらいまで育てます。最初も最後も食味は同じです。

    Q:「秋なすは嫁に食わすな」といいますが、秋なすと夏なすの違いは?
    A:夏と秋で、種類や栽培方法に違いがあるわけではありません。「秋なすは嫁に食わすな」という言葉の意味は、諸説ありますが、ナス科の植物にはもともと毒があるらしく、秋になると温度が下がってきて、多少毒の濃度が高くなるので、思いやりで食べさせるな、ということだともいわれています。

 
 

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