■2013年3月17日 第12回 〜 修了式記念講演「青果物の価値を訴求した新しい販売方法」 デザイナーフーズ(株)取締役、<ベジマルシェ>店長 市野真理子氏
◇<ベジマルシェ>とデリカフーズの紹介
  • <ベジマルシェ>は、赤坂アークヒルズ2階にある、デリカフーズ・グループのショールーム。野菜を、「抗酸化系」「免疫系」「解毒系」という3つのカテゴリーに分けて、展示販売している。このカテゴリー分けのベースになっているのは、デリカフーズで行っている野菜の成分分析。

  • デリカフーズは、主としてレストランなど外食産業を顧客とする業務用の青果物卸業。年間を通して、顧客に納める青果物の品質を管理するために、各事業所で野菜の成分を分析している。事業所は東京、名古屋、大阪にあり、それぞれの市場から入っている野菜を扱うため、日本全国の野菜が分析対象といえる。
デザイナーフーズ(株)取締役
<ベジマルシェ>店長 市野真理子氏
  • 分析項目は、ビタミンC、糖度、抗酸化力、硝酸イオン値の4つ。これまで10年以上、毎日分析しているので、蓄積されたデータの数は2万検体を超える。
◇日本の野菜の規格
  • 日本の野菜は、大きさ、形、色つやなど、見た目だけで等級評価され、値段がつけられている。

  • 現在の野菜の規格は、大量生産、大量販売を前提とし、年間安定供給するためで、質より量が重要とされている。
◇デリカフーズ・グループがめざすところ
  • デリカフーズは、野菜を「見た目」ではなく、「中身」で評価する「野菜ルネッサンス」を提唱しており、医学、食ビジネス、農業、科学技術が連携して推進する、「医」「食」「農」「工」連携に取り組んでいる。その目的は、食で「健康」を実現するための科学的根拠(エビデンス)の構築である。

  • 日本は世界で最も高齢化が進んだ社会で、高齢者医療費の削減が急務になっており、そのために食で健康寿命をのばしたいと考えている。
◇平均寿命と健康寿命
  • 健康寿命とは、平均寿命から障害を持った期間を差し引いた期間のこと。この1年間で、寿命は0.4歳延びたが、障害をもった期間が1.3年長くなった結果、健康寿命は0.9歳短くなった。

  • 障害をもった期間とは、次のような状態のことである。
    • 脳出血後の麻痺、大腿骨頸部骨折で入院が長引き筋力が委縮
    • 関節が拘縮をきたして寝たきりになる
    • 認知症が進行して寝たきりになる

  • 65歳以上の高齢者は人口の24.1%を占めており、高齢になっても健康で過ごせるようにしなければならない。
◇健康で長生きする条件は2つある
  1. エネルギーを摂りすぎないこと
    • 摂取カロリーを制限すると、活性酸素の発生量が減少する。肥満はメタボリックシンドローム、糖尿病へと進行してゆく。この流れを食いとめることが、重要である。

  2. 抗酸化力の高い食事をすること
    • 血液中には善玉コレステロール(HDL)と悪玉コレステロール(LDL)があり、悪玉コレステロールの一部が活性酸素によって酸化されると動脈硬化を起こす。これには抗酸化物質のポリフェノールが有効で、ポリフェノール自身が酸化され、コレステロールが酸化されないようにする。ビタミンCやビタミンEの抗酸化作用も同様である。

    • よく知られているポリフェノールには、アントシアニン(ブドウ)・フラボノイド類(紅茶)・渋味成分のタンニン類(お茶カテキン)などがある。

    • ワインのポリフェノールは、がんのほか、動脈硬化、老人性痴呆症、脳梗塞、リウマチ性疾患、心筋梗塞、痛風、糖尿病などの予防に有効のようだ。つまりほとんどど全ての病気より保護してくれる。
◇活性酸素は老化やがん・生活習慣病の原因
  • 人間は呼吸して生きている。体内に入った酸素の約2%が活性酸素になる。活性酸素は、生きている限り、免れることはできない。

  • 活性酸素には、抗菌、抗ウイルス作用、ホルモンの合成、情報伝達など大事な役目も果たす。

  • 人間には活性酸素を消去する酵素(SOD)が備わっているが、加齢とともにSODを作る能力は低下する。このときに、活性酸素が過剰に発生すると、DNAを傷つけたり、不飽和脂肪酸と結びついて過酸化脂質を作るなどの悪さをする。
◇活性酸素と抗酸化物質
  • 布団などを日光消毒をするのは、紫外線が「一重項酸素」という活性酸素を発生させて、布団や衣類の中の細菌やカビを殺菌・消毒してくれるから。

  • 地球は、紫外線が発生させる活性酸素によって殺菌され、人間が居住可能になっている。ところが現在温暖化によってオゾン層は破壊され、バランスが変化してしまった 。

  • 現代人には、過去にはなかったさまざまな悪い症状が出始めている。その原因は、汚染された環境(空気)、ストレス、食品添加物、多量飲酒、栄養素の不足、殺虫剤、農薬、激しい運動、紫外線、喫煙、車の排気ガス、電磁波、放射線などなど・・・身の回りにたくさんある。
◇抗酸化物質は紫外線によって生産される
  • 太陽の下で育つ野菜は抗酸化物質(フィトケミカル)の宝庫である。

  • カロテノイドは、色の鮮やかな野菜に含まれる。αカロテン、βカロテン、リコペンなど、約600種類あるといわれる。

  • ポリフェノールには、アントシアニン類、フラボノイド類、タンニン類、リグナン類などが含まれ、約5000種類あるとされる。

  • イオウ化合物では、イソチオシアネート、スルフォラファンが知られている。

◇野菜の抗酸化力を測定する方法
  • デザイナーフーズでは、3つの方法で抗酸化力を測定している。

    1. DPPH法
      • 安く早く多くの検体が測定でき、産地の評価、旬の発見につながっている。
      • デザイナーフーズには、1万検体以上のDPPHデータが蓄積されている。

    2. ORAC法
      • アメリカ農務省が開発した測定方法で、米国にはORAC値を表示している加工食品も多い。
      • 日本では、食品機能性研究会やAOU研究会がこの測定方法をとっている。

    3. ESR法
      • 体内で発生する3つの活性酸素、「スーパーオキシド」「ヒドロキシルラジカル」「一重項酸素」を消去する力を測定できる。
      • 野菜の機能性は、医学界に認知される必要がある。ESRは、医学で用いられており、食と医学をつなぐ生体反応に近いデータとして注目される。
◇野菜と果物の抗酸化力
  • デリカフーズでは、抗酸化力、糖度、ビタミンC、硝酸イオンの4項目を毎日測定している。抗酸化力はDPPH法による。

  • 測定する野菜の品目は、農水指定の14品目に、デリカフーズで取扱量の多い野菜を4品目。年間2000〜3000検体し、検体数はのべ1万検体を超えている。
◇デザイナーフーズが考案した抗酸化力の表現
  • デリカフーズの研究部門、デザイナーフーズは抗酸化力をどのように表現すればよいか、という研究を続けている。そのなかで、ESRで測定した野菜の抗酸化力を三角の面積の大きさで表す方法を考案した。

  • 三角形の3つの頂点は、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素の消去能を表す。スーパーオキシド消去能は「抗老化」で老化を防ぐチカラ、ヒドロキシルラジカル消去能は「健康」で病気を防ぐチカラ、一重項酸素消去能は「美容」で紫外線から肌を守るチカラを示している。

  • さまざまなかぼちゃの抗酸化力を、この三角形で表わしてみたところ、品種による違いがわかった。
◇旬の野菜にはチカラがある。おいしいものは体によい
  • 3年間 2万検体の分析結果から「旬の野菜にはチカラがある。おいしいものは体によい」という結論が得られた。

  • ほうれん草の測定結果は、抗酸化力、ビタミンC、糖度が最も高いのは1月、最も低いのは6月。硝酸イオンは3月が最も低く、8月が最も高くなった。冬の旬の時期はチカラがあり、味もよく、夏はその逆ということがわかる。キャベツは、抗酸化力、ビタミン、糖度Cが高いのは1月〜3月、低いのは8月〜9月。寒い旬の時期にはチカラがあり、味もいい。成分測定時には必ず食べて味をみている。計測値がいい1月、2月は官能テストでもいい結果が出た。

  • すいかは、収穫適期のものと、適期の1週間前のものをESRで比較してみた。ESRは、老化に関わるスーパーオキシド、疾病に関わるヒドロキシルラジカル、美容に関わる一重項酸素という3つの活性酸素を消すチカラを計測することができる。1週間の違いなので、見た目ではまったく差はなかったが、食べてみると適期のほうがみずみずしくおいしかった。また、抗酸化力も3項目すべて、適期が未熟を上回り、特に一重項酸素は3倍近く高かった。

  • バナナは、買ってきてすぐのバナナとシュガースポットが出てきた状態の抗酸化力をESRで測定した。その結果、スーパーオキシド、ヒドロキルシラジカル、一重項酸素のすべてにおいて、熟したバナナの抗酸化力が強いという結果だった。

◇調理と抗酸化力とおいしさの関係
  • ネギの生とフライパン加熱したものについて、抗酸化力の変化をみた。ネギはフライパンで加熱調理したものは、糖度が高く、甘みが増しておいしくなり、同時に抗酸化力も約2.5倍強かった。

  • 菜の花のゆで時間による、抗酸化力とおいしさの変化をみると、ESR、DPPH、ORACのいずれの測定結果でもよいものは、食べておいしいことがわかった。

  • 和あえ方によっても抗酸化力は違う。春野菜のポン酢和え、菜の花の辛子和え、菜の花の黒ごま和えを比較すると、黒ごま和えの抗酸化力が高い。

  • れんこんの調理法では、「生」「煮る」「炒め煮」を比較すると、「炒め煮」が最も高く、次に「生」、「煮る」は最も低い。これは、炒めるというプロセスが必要であることを示している。

  • 味噌は種類によって抗酸化力が違う。高い順に、豆味噌、合わせ味噌、米味噌、白味噌という結果が出た。
◇野菜のチカラの違いによる販売
  • 赤坂アークヒルズのカラヤン広場で定期的に開かれる「ヒルズ・マルシェ」に、ベジマルシェも出店しており、抗酸化力の高い野菜の販売実験を行っている。

  • ミニトマトのチカラの違いを★で表し、★1つは200円、★2つは300円、★3つは500円で販売した。★3つをいくらで売るか、価格設定は非常にむずかしかったが、500円という価格で試行したところ、試食販売が功を奏したのか、500円から売れた。高価すぎないかと思ったが、高いものから売れたのは意外な発見だった。

  • だいこんやにんじんでも同様の試食販売を行ったところ、値段が高くても、★3つの野菜から売れていき、ミニトマトと同じ結果が出た。
◇野菜がもつ3つのチカラ(機能性)
  • デザイナーフーズは、野菜と果物の機能性を大きく3つに分類している。

  • 「抗酸化力」は、トマトを代表とする緑黄色野菜に多く含まれ活性酸素を消去するチカラ。体の老化や病気を食い止めることができるといわれている。多くの野菜とフルーツに共通した機能で、野菜を食べる意味として現在注目されている。

  • 「免疫力」はレタスのように淡色野菜に多く含まれる。体の中で異常が発生した時に治すチカラで、病気にかかりにくくなったり、かかった病気が治りやすくなったりする。

  • 「解毒力」はたまねぎのようにイオウ化合物を多く含む野菜にあるチカラで、体の中のいらないものを外に出す。最近は「デトックス」ともいわれる。

◇ベジマルシェの活動
  • ベジマルシェの販売方法
    • 野菜を「抗酸化」「免疫」「解毒」に分けて販売
    • 野菜の中身のチカラを検査し、★をつけて販売
    • 調味料、穀類などの抗酸化力を測定し、すぐれたものをフードサプリメントとして販売
    • サラダ、ジュースなども、「抗酸化」「免疫」「解毒」のレシピで作ったものを販売

  • セミナー「野菜のチカラ」を開催している。1月1テーマで7クラス(1クラス8〜9人)。旬の野菜を食べながら、野菜の機能性について話をする。4月で30回目。

  • 厚労省は野菜の摂取目標量を1日350gとしているが、ほとんどの人がクリアできてない。野菜の摂取は量ではなく質、野菜の中身で考えるべき。抗酸化力の高い野菜であれば、現在の平均摂取量、約280gでも、350g分のチカラを得ることができる。
 

【八百屋塾2012 第12回】 実行委員長挨拶講演「青果物の価値を訴求した新しい販売方法」塾生の感想ティーパーティー