■2012年7月22日 第4回 〜 講演「かぼちゃについて」 小川次郎氏
◇かぼちゃの栽培方法
  • 昔と今では、かぼちゃの栽培方法が変わってきています。昔は、3メートルくらい離して、畑に直接タネを2〜3粒落とし、芽が出てきたら1本にして、放任していました。自由にさせて、成りたいときに成らせると、3〜4節で着果してしまい、小さくて、形が悪く、立派なかぼちゃはできません。

  • 現在は、マルチをはってトンネルをかけ、その中へ苗を定植します。10アールあたり、300〜400株。本葉3〜4枚のところで摘んで、1メートル間隔くらいで植えていきます。葉が10枚くらいになったところで着果させると、2〜3キロくらいの大きなかぼちゃになります。蜜蜂を使って交配します。
小川次郎氏
  • 300株植えて3個成らせると900個、400株入れると1200個できる。今、だいたいが1回採りで、そのかぼちゃの収穫が終わると、樹を抜いて、何かほかの作物にかえます。かぼちゃからすれば、まだ採れますよ、といいたいところでしょうが、農家の都合で抜いてしまいます。

  • 表面に白い部分があるかぼちゃを目にするかもしれません。これは、着果してから20日ぐらいのうちに、下に発泡スチロールのマットを敷くと防ぐことができます。25〜30日過ぎてからではダメ。こうして、上も下も同じように仕上げる。そうしないと、味は同じですが、B品になって、A品にはなりません。

  • かぼちゃは、寒さや暑さに非常に弱い植物です。私は、スイカやメロンも作っていますが、かぼちゃのほうがはるかに弱い。0℃で、スイカは問題ありませんが、かぼちゃは凍傷になります。40℃くらいになると、葉が弱ります。スイカは50℃くらいまで大丈夫です。

  • かぼちゃは熟してくると、うどんこ病に弱い。着果してから50日くらいで収穫しますが、うどんこ病で葉がやられてしまうと、30日くらいで樹が疲れてくる。葉を維持しないと、立派なかぼちゃにはなりません。6〜7月になると、うどんこ病が発生しやすい温度と湿度になります。

  • 葉がおかしくなると、直射日光が当たるので、日焼けを起こします。白いかぼちゃは、割と日焼けしないのですが、黒いかぼちゃは、焦げて、出荷できなくなります。日焼けを防ぐには、幅の広いガムテープを上においておきます。かぼちゃは、上も下も面倒をみてあげなければいけない、大変デリケートな野菜です。

  • 今日は、「宿儺(すくな)かぼちゃ」と「くりあじ」を持ってきました。「宿儺(すくな)かぼちゃ」は、飛騨高山の露店でタネを買って、毎年作っています。専門家に聞いたところ、元はアメリカ原産で、非常においしいかぼちゃです。ただ、1株から、せいぜい2本しか採れません。その分、大きいのですが、採算的にはあまり合いません。今年は、早い時期に来た台風で結構やられてしまいました。非常に大きな葉っぱなので、風に弱いんです。
◇百姓をしていて思うこと
  • かぼちゃには雌花と雄花があって、受粉するとかぼちゃになる。それを見ていると、植物は、きちんと実ができるように仕組まれているんだ、と感じます。雄花の花粉は、風に運ばれたり、蜜蜂によって交配します。蜜蜂は、2キロくらい先まで、どこにどういう花が咲いているかがわかるらしい。最初にその花のところまで飛んでいった1匹が、帰って群れに知らせるそうです。雌花も雄花も蜜を出します。その蜜を集めに、蜜蜂が飛んで来るわけですが、かぼちゃもタダでは蜜をやらない。受粉のために蜜をやるんです。蜜蜂が入ってくると、絶対、体に花粉がつくようにできていて、それで受粉する。植物は動かないだけに、そういう仕組みがうまくできている。

  • 植物は、芽を出すときに、今、芽を出しても大丈夫かどうかがわかっているような気がします。雑草を見ていると、春の草は、目一杯大きくなってから、花が咲きます。ところが、秋の草は、芽を出すと、まもなく花が咲く。仮に、9月過ぎに芽が出たとすると、早くしないと子孫を残せないので、体を作るよりも花が先ということで、すぐに花を咲かせる。冬に霜が来るのを感知しているんですね。太陽の向きなのか、温度か、私は日照時間でみているのではないか、と思っています。また、雑草が1本芽を出すと、隣の雑草は休んでいる。最初に出たのを取ると、次が出てくるんです。自分が出る番が来るまでは出ない。百姓をしていると、植物はしたたかだな、敵わないな、と思います。私は、かぼちゃやスイカ、米を作っていますが、すべてが自分の自由にはなりません。自然とともにやっていかないと、作物はできません。

  • リンゴの「ふじ」やナシの「豊水」は「自家不和合性」といって、自分の花粉では受粉しないんです。「豊水」だけを1本植えても、実はつきません。そのために、何かほかのナシの花粉を持ってきて、受粉する必要があります。

  • 今の野菜はほとんどが改良されているので、冬も夏も作れます。少し前まで、大根は、関東では8月は作れませんでした。食べられるような大根にはならなかったはずです。ところが、改良されて、作れるようになりました。ただ、夏場の大根の大半は北海道のもので、それはごく自然なことだと思います。

  • 植物は、自然に沿って芽を出して、立派な形になるのが自然体ではないか、と思います。人間は、野菜から栄養をもらって生きているのですから、植物に対して「ありがとうございます」という気持ちになる。私たち百姓は、みなさんに「おいしかった」といってもらえるものを作るために、自然体の中で、どうしていくか。常に努力しています。
◇質疑応答より
  • Q:蜜蜂がかぼちゃ以外の花の花粉をつけてしまうことはあるのですか?
  • A:蜜蜂の体には、いろいろな花の花粉がついているのですが、ほかの花の花粉は絶対に受け入れない。同じウリ科であっても、スイカとかぼちゃは交配しません。

  • Q:今日の「宿儺(すくな)かぼちゃ」も、1株に1個?
  • A:たぶん、そうです。1株に2つなるのは少ないと思います。

  • Q:最近、「宿儺(すくな)かぼちゃ」は各地で作るようになりましたが、作れない場所はあるのでしょうか?
  • A:それはないと思いますが、千葉で作ると、大きくなりすぎてしまう傾向があります。

  • Q:ナシの「豊水」は自分の花粉では実がつかない、とのことですが、人間が育てなければ、育たないということですか?
  • A:ナシ農家では「豊水」と「幸水」を一緒に作っていると思います。リンゴの「ふじ」の場合は、必ず、小さな実をつける「ヒメリンゴ」がリンゴ園に1本くらい入っているはずです。それは、交配のために植えてある。リンゴならどの花粉でも使える、と聞きました。

  • Q:小さいかぼちゃは水っぽいと思うのですが、あれは完熟していないのでしょうか?
  • A:大きくても若いかぼちゃもあるので一概にはいえません。かぼちゃは花が咲いてから50日近くかかります。皮に爪が入るようなものはダメ。30日前くらいのかぼちゃだと思います。うちの組合では畑に行って検査をします。いつ着果したかを農家に聞いて、50日過ぎていれば収穫できます。収穫後はさらに4〜5日風乾をして、成り軸がコルク状になってはじめて出荷できます。かぼちゃを切ったとき、黄色みの強いものと赤みのあるものがあると思いますが、若いものはどちらかというと白っぽい。

  • Q:若いかぼちゃは置いておけば追熟するのですか?
  • A:30日くらいで収穫したものは、残しておけば、冬至まで持つ。完熟したかぼちゃは20日くらい経つと、色も濃くなり、おいしくなくなってしまいます。完熟したかぼちゃを天ぷらにするときは、5mmぐらいの厚さにすると、味が出ます。1mmぐらいの薄切りでは、何を食べているかわからないでしょう? かぼちゃの天ぷらは5mm、とみなさんも広めてください。また、とってから風乾したものは、煮崩れしません。とれたてで、コルク状になる前に料理をすると、皮と肉が分離してしまいます。かぼちゃを切るときは、頭のほうは倍ぐらい厚いので、お尻のところに上から包丁を刺します。そうすると切りやすい。簡単に切れるものは、若いかぼちゃです。
 
 

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