■2012年12月16日 第9回 〜 講演「さといも概論と最近の状況」 埼玉県農林総合研究センター園芸研究所 岩崎泰史氏
◇さといもの原産と来歴
  • さといもの原産地は南アジア(インド東部からインドシナ半島のあたり)です。

  • 野生種はえぐみが強く、食用には向きません。えぐみのもとは、シュウ酸カルシウムです。

  • 野生種は、新たに株を作るために地下茎を細長く伸ばし、いもを作るものはほとんどありません。地下茎が太って丸くなるもの、えぐみの少ないものが選抜され、今のさといもができました。
埼玉県農林総合研究センター 園芸研究所
岩崎泰史氏
  • 日本へは、原産地から、中国や太平洋諸島を伝わって、縄文時代に入ってきました。稲よりも早く伝来したとされています。

  • 昔は、「いも」といえば「さといも」を指していました。米よりも古い主食だったと考えられています。

  • さといもが栽培されるようになったのは江戸時代です。

  • ひとつの親いもに子いも、孫いもがたくさんつくことから、子孫繁栄の縁起物として、お正月や十五夜など、ハレの日に食べられてきました。

  • 日本に自生している「山のいも」に対して、里で栽培されるので、「さといも」と呼ばれます。
◇さといもの品種について
  • さといもは古くから日本に伝わり、各地に多くの品種があります。中国のさといもを日本で作ってみたところ、日本の品種と変わらなかった、といいますから、現在、栽培されている品種は、昔の形態をほとんど変えずに今まで来ている、と考えられます。

  • さといもは、食べる部位によって、「子いも用品種」、「親子兼用品種」、「親いも用品種」、「葉柄用品種」の4つに大別されます。子いも用品種は、親は食べずに子いもや孫いもを食べる品種です。親子兼用品種は、「八つ頭(やつがしら)」が代表的で、親も食べますが、その回りにできる子いもも食べられます。親いも用品種は「たけのこいも」が代表的で、親いもを主に食べる品種です。子いももできるのですが、それほど太りません。葉柄用品種は、「ずいき」や「いもがら」と呼ばれる葉柄を専用に食べる品種です。

  • 子いも用品種の代表的なものが、「石川早生」。名前の通り早生の品種で、8〜9月には市場に出回ります。いもは丸くて、肉質は粘質。よく「きぬかつぎ」にします。石川というのは、石川県ではなく、大阪の地名です。主な産地は、宮崎県、千葉県など。

  • 子いも用品種の「土垂(どだれ)」は、関東で多い品種。中晩生で、10〜12月が出荷時期です。俵型で、収量が非常に多く、肉質は粘質でぬめりが強い。名前の由来は、葉っぱが地面に向かって垂れるところから。産地は、埼玉県や千葉県など。

  • 親子兼用品種の代表的なものが、「八つ頭」。親いもができたあとで次々と子いもが分化し、それがひとつのかたまりになって大きないもになります。他のいもに比べてでんぶん含量が多く、ホクホクした食感です。葉柄は、えぐみがないことから、「ずいき」、「いもがら」と呼ばれ、食べられています。

  • 親子兼用品種の「唐いも(とうのいも)」の子いもは、京都で「えびいも」と呼ばれ有名です。土寄せにより、子いもをえびのように曲げて栽培します。肉質が粉質でホクホクしています。主な産地は静岡県。

  • 親いも用品種、「たけのこいも」の名前の由来は、いもが地上に出てきて、たけのこのように見えることから。「京いも」とも呼ばれています。主な産地は、宮崎県。

  • 葉柄用品種の代表は、「はすいも」です。葉柄は生のままでも食べられます。穴が空いており、刺身のツマなどにも使われています。いもは小さくて、食用にはなりません。高知県など、西日本が産地です。

◇さといもの栄養成分
  • 主成分はでんぷんで、全体の13%ほど含まれています。他のいもに比べると、でんぶんの粒が細かく、熱によって簡単に糊化するので、消化吸収が非常によい。

  • 水分は84%と、他のいもに比べて多いため、相対的に低カロリーだといえます。

  • 食物繊維は2.3%、さつまいもと同じくらい多く含んでいます。

  • 他のいもに比べて カリウムも多い。カリウムは、高血圧やむくみ防止に効果的だといわれています。

  • ぬめりの成分は、ムチンやガラクタン。ムチンは糖たんぱくの一種で、胃の粘膜を保護するといわれています。ガラクタンは食物繊維の一種で、体にいいさまざまな作用があるといわれます。
◇さといもの生育と栽培について
  • さといもは、いもで増やします。種いもを植えると、芽が生長して親いもができます。親いもの脇に子いもができて、さらに子いもの脇からまた孫いも、ひ孫いもが分化していきます。

  • 関東では、「土垂」は3〜4月に定植します。5月に地上に芽が出てきて、6月上旬になると子いもが分化し始めます。7月始め頃には地上部がだいぶ生育し、子いももたくさん育っていて、すでに孫いもも小さく回りにでき始めています。9月上旬は、地上部が一番繁茂する時期。孫いもの肥大もかなり進みます。11月になると地上部が枯れてきて、収穫期になります。掘ると、親いもの回りに子いもがたくさんついていて、その回りに孫いももついている状態になっています。

  • さといもは原産地が南アジアなので、高温多日照を好みます。発芽するのに必要な最低温度は15℃で、生育適温は25〜30℃。水分を好むので、乾燥に弱く、夏場はかん水が不可欠です。埼玉の産地でも、井戸水をスプリンクラーでまいているという方が多い。夏場は5日から1週間に1度はかん水が必要です。連作を嫌うのも特徴のひとつで、連作すると必ず収量が落ちてしまいますから、4〜5年ごとに輪作を組む必要があります。

  • さといもの作型は、東北地方、関東から中国地方、九州地方の大きく3つに分けられます。東北は、5月に定植し、11月までに収穫するという作型。関東は3月に植えて、12月ぐらいまでにとる作型。九州は暖かいので、1月ぐらいに植える作型もあります。

  • 最も一般的に行われているのが、「普通栽培」。東北では高温の時期が短いので、催芽処理といって、種いもをハウス内など温かいところの土中に伏せて早く芽を出させます。それを5月に植え、10〜11月に収穫します。その他の地域では4月ぐらいに植えつけて、9〜12月に収穫しています。

  • 「早熟栽培」は、マルチをしたりトンネルをかけることで保温性を高め、初期の生育を早める栽培方法です。平らなところに植える方法や、最初から高畝にして植えるという方法もあります。

  • 「半促成栽培」は、九州で行われています。早採りするために、催芽処理した種いもを、1〜2月にハウスの中に植えつけます。それでも温度が足りない場合は、中にトンネルをかけることもあります。5月頃から収穫できます。

  • 埼玉県では、主に早熟栽培が行われています。2〜3月にかけて土作りをして、3〜4月に種いもを植えます。種いもは40g以上の孫いもで、芽がしっかりしているものを使います。マルチは6〜7月に除去し、株間に肥料をやって、15cmくらい土を寄せます。夏場はかん水が大切。今年も、夏場はかなり乾燥していたので、頻繁にかん水をしていました。また、カルシウムの欠乏症で、芽つぶれ症が発生することがあります。水不足で発生が多くなるので、かん水で防ぐことができます。収穫は9月から12月ぐらいに行います。埼玉県では、早生の「蓮葉いも」が9〜10月、中晩生の「土垂」が11〜12月に収穫されています。
◇作付面積、生産量、消費量の推移
  • さといもの主な産地は、関東以南の地域。関東では千葉県、埼玉県が大きな産地で、西のほうは愛媛県や九州南部、宮崎県、鹿児島県などで多く作られています。

  • 作付面積は千葉県が1700ヘクタールと全国で最も多く、次が宮崎県、3番目が鹿児島県、4番目が埼玉県です。

  • 作付面積は、30年ほど前に3万ヘクタールほどあったのが、現在は1万4000ヘクタールと半減しています。この原因は、食べる量が少なくなっていること。1人あたりの年間購入量をみると、30年ほど前は1400gぐらいだったのが、去年は700gぐらいで、最盛期の半分ほどに減っています。

  • 出荷は6〜8月頃に九州の産地から始まり、8月以降は千葉県、10月以降は埼玉県が増えてきます。12月が出荷の最盛期で、年明け以降も、埼玉県、千葉県を中心に出荷が続きます。

  • 中国からも輸入されています。初期は生鮮のさといもも多かったのですが、近年はほとんどが冷凍のさといもです。輸入は減少傾向で、平成16年(2004年)は8万トンぐらいありましたが、現在は約4万トン。国産の出荷量が約11万トンなので、国内で流通しているさといもの3割は輸入物で占められていることになります。

  • 産地がある県の試験場では、多収、高品質、省力栽培技術、病害虫防除技術などの研究のほか、最近は、新品種の開発も行われています。さといもは日本では気候的に花が咲きにくく、種子のできない3倍体の品種が多いので、交配による育種が困難です。そのため、品種改良は、良いものを選抜していくとか、突然変異を起こすためにX線を照射するといった方法等が行われています。

  • 最近出てきている品種としては、神奈川県の「神農総研1号」、佐賀県の「福頭」、千葉県の「ちば丸」、愛媛県の「伊予美人」、「媛かぐや」などがあります。埼玉県でも、「丸系八つ頭」を育成し、今年の12月から販売を開始しました。

◇「丸系八つ頭」について
  • 「八つ頭」は、おせち料理でおなじみの食材です。「八」という字が末広がりで縁起がよいとか、「頭がたくさんある」ということで人の上に立てるなど、縁起をかついでお正月に食べられるようになったそうです。

  • さといもの中でも、「八つ頭」は特に消費が減っています。その理由は、ゴツゴツしているので皮をむくのが面倒とか、おせち料理を作らなくなったとか、食べる習慣がないなど。若い人では、「八つ頭」を食べたことがない方もいます。そこで開発したのが、「丸系八つ頭」です。
丸系八つ頭
  • 「丸系八つ頭」は親いもが分けつせずに育って、丸く大きくなります。地上部はずいきとして食べられ、地下部は親いもと子いもに分けられます。

  • 産地で、ゴツゴツした普通の「八つ頭」から、突然変異で丸いものが見つかりました。ただ、それはまだ丸い形が固定されておらず、普通の「八つ頭」に戻ってしまうので、丸い形質をなんとか固定させようと、選抜を繰り返しました。平成14年(2002年)は43%しか丸いものができませんでしたが、選抜を繰り返すことにより、最終的には9割以上丸い形ができるようになりました。

  • 「土垂」と「丸系八つ頭」を比較すると、「丸系八つ頭」のほうがショ糖の含量が高く、でんぶん含量も高い。さといもはねっとり感、「八つ頭」はホクホク感と甘みを楽しめます。

  • 普通の「八つ頭」に比べ、「丸系八つ頭」は皮がむきやすく、皮むきの時間は半分くらいで済む。調理ロスも3/4ぐらいまで減らすことができます。

  • 農林まつりで、「丸系八つ頭」に関する食味アンケート調査を行いました。協力いただいた方は、女性が6割以上、年齢は50歳以上の方が多かったのですが、「八つ頭」を食べたことがあるかを聞いたところ、ある方が9割以上で、ない、わからないという方はほとんどが若い方でした。食べた感想は、「おいしい」が半数以上で、「普通」という方もいましたが、「まずい」という方はゼロ。 普通の「八つ頭」と、丸い形の「丸系八つ頭」、どちらの形がいいかを聞いたところ、8割以上の方が、丸系を選んでくれました。理由は、皮のむきやすさです。また、大きさについては、600gぐらいがいい、という方が6割以上。実際の大きさは、500〜1000gの間が多いのですが、栽培時、株間を詰めることで、小さいものを作ることができます。600gのいもの価格について聞いたところ、200円が32%、300円が24%でした。つまり、300円以内であれば売れる可能性が高いということです。

  • 現在、深谷などで試験的に「丸系八つ頭」の栽培を始めています。この12月から販売を開始し、全部で600個ぐらいと数は少ないのですが、イオンの越谷レイクタウン店と、ヤオコーの川越的場店の2店舗で販売しています。その他、埼玉県内の飲食店でも、「丸系八つ頭」を使ったメニューを作り、提供していただいています。

◇質疑応答より
  • Q:北のほうの地域では、種いもの貯蔵が難しく、毎回買わなければいけないので困っている。種いもをどのように貯蔵しているのか教えてください。
  • A:さといもは熱帯原産なので、寒さに弱い。種いもの貯蔵は、地面に70cm〜1mぐらいの穴を掘り、その中に親いもに子いもがついたままの状態で入れ、上に藁を敷き、土を25cmくらいかけて、さらにその上に雨よけをするのが埼玉県では一般的な方法です。種いもの越冬の最低温度は6℃くらい。東北では、もっと穴を深く掘れば大丈夫かもしれませんが、定かではありません。

  • Q:ねっとりしたものと、ホクホクしたさといもは、どちらが主流なのでしょうか?
  • A:「大野いも」など、いわゆる伝統のさといもは、どちらかというと粉質です。それに対して、近年多く出回っているさといもは全体に粘質が強く、ねっとりしています。特に、「蓮葉」などはねっとり感が強い。今の消費者には、簡単に火が通るねっとり感の強いさといものほうが人気があります。「大野いも」や「八つ頭」は、弱火で長時間煮るのが鉄則で、強火で煮てはいけません。食感がかためなのは、身がしまっているからなのに、「火が通らない」といわれてしまう。本来のものが理解してもらえない時代になってしまった。(※回答は杉本晃章氏より)

  • Q:「八つ頭」の大小で味に違いはありますか?
  • A:大きいものと小さいものを食べくらべても、それほど違いは感じられません。それよりも、作る土地や水のやり方で差が出るようです。たくさん水をあげて素直に育ったものと、水が不足気味で育ちが悪かったものでは、かたさなどに違いが出ます。土質やかん水など、栽培面での違いのほうが大きいです。
 

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