■2019年8月18日 第5回 出張八百屋塾@北足立市場 〜 講演2「多品目少量栽培で成功できる! 小さな農業の稼ぎ方」 (有)コスモファーム 取締役 会長 中村敏樹氏
◇はじめに
  • 昨日、四国の高松からやって来ました。30年間、毎週、四国と関東を行ったり来たりしています。

  • 私は長野の農家の次男です。四国の大学の農学部に進み、養子に行った家は農家ではありませんでしたが、農業が好きなので、周りの畑や田んぼを借りて農業を始めました。
    今、日本の食料自給率が4割以下なのはなぜか。農家が儲からないからです。子どもの頃から、農家はしんどい、儲からないと聞かされ続けたら、後継ぎはいなくなります。結果、農地は荒れ、鳥獣被害が増える。私のライフワークは農業の再生です。野菜ソムリエ協会の講師なども行い、野菜の魅力を伝える活動をしています。
(有)コスモファーム 取締役 会長
中村敏樹氏
  • 指定野菜の産地になれば国の助成金で産地は守られます。それ以外の産地に補助はないので、小さな農家はみんなと同じことをやっていてはいけません。私はいろいろなことをやりました。中国で大葉を作ったときは、毎日飛行機で運びました。ファミリーレストランからの依頼でハーブも作りましたが、あるときネギから農薬が出て、中国産は切られました。大葉やハーブには出ていなくても、ネギに出たらダメです。

  • それなら日本で、と四国や千葉などで野菜を作るようになりました。現在、約350品目。指定野菜は作らず、ジャガイモが40種類、男爵、メーク、北あかりは作りません。市場にいくらでもあるものは私が作る必要はないと思っています。

  • レストラン、百貨店、マルシェで販売しています。東京の飲食店は870店舗に宅急便で出しています。宅急便は集荷、配達、なかには集金までしてくれます。地方はダメ、ではなく、こういうシステムを活用する。ただし、商品には付加価値が必要です。
◇一次産業が衰退したわけ
  • 一次産業が衰退した理由は、販売効率だけを考えた農産物を作り続けたからです。秀品のM・Lが中心で、規格に合わなければ捨てられます。畑で捨てられる食品廃棄がどれほど多いことか。だから農家が儲かりません。

  • 商品は原価があって価格が決まりますが、農産物の価格をつけるのは売り手。農家もあきらめていて、価格に生産コストが反映されず、生産価格が維持できません。
◇日本の農業
  • 戦後の農地解放は1ヘクタールが目安でした。お米は高く、物価は安かったので、がんばれば家族で食べられました。その後、世の中が変わり、1ヘクタールで80俵取れても80万円にしかならず、米を作れば作るほど赤字になりました。

  • 農産物の価格は、需要と供給のバランスで決まります。高く売りたかったら旬を外すことですが、信用を得るには、安定供給、ロット、規格も揃えなければならず、面倒な野菜は説明も要る。となると、指定野菜を生産するほうがいいと思うかもしれませんが、指定野菜は小品目、大量生産、F1で個性も不要です。本当は個性のある野菜が面白い。小さな農家はそれを利用すべきです。
◇農業規模と生産スタイル
  • 私は、月に2〜3回、青山のファーマーズマーケットに出ています。高松からの交通費、宿泊費、出店料などかかりますから、出店のハードルが高いのは事実です。でも、いろいろな仲間と出会えて、相談ができる場所は必要です。

  • マルシェでは「うちのキャベツは日本一!」と、キャベツだけを並べても、魅力はありません。少量多品目こそ、マルシェ向きです。
◇コスモファームの取り組み
  • マルシェに合わせて農産物を作っているうちに、約350種類になりました。たとえば、スペインの黒大根は見た目はよくありませんが、「コンフィやアヒージョにするとおいしいよ」と相対で説明すると、「面白いね!」とお客さまが買ってくださいます。

  • うちの畑はとてもカラフルで、いつも売る方法を考えています。新宿伊勢丹には毎日出荷しています。野菜を入れた袋に、野菜の花を1本加えるだけで、おしゃれになります。手に取ってもらえたら、ほとんどの方が買ってくださいます。軽い野菜で単価が高いのはこちらもありがたいわけです。

  • トレビス、イタリアのタンポポ、紫のロメインレタス…。リーフ系のものが多いので、掻き菜でレタスブーケを作ります。トウ立まで長く収穫できますし、お客さまにはいろいろあるほうが便利です。トレビスは1個ではなく、サラダに1枚あればいいんです。

  • ニンジンは5色作って、別々に売ると紫と白が残ってしまうので、全部入れます。「バーニャカウダがおすすめ!」などと、POPを作るといいと思います。

  • ナスは、白、ひすい、ゼブラ、赤など、1品種につき20本くらい作り、組み合わせて出荷しています。どこにでもある「千両二号」を私が作る必要はありません。

  • 緑色の大根は栄養価が高く、ビタミンCは普通の大根の20倍もあるといわれます。大根おろしにすると、グリーンがとても美しく、目でも楽しめます。黄色いカブやカリフラワーなど、お客さまの目に留まるには、まずビジュアル。スイスチャードはサラダに使えるように、小さく作ります。

  • 花ズッキーニは、契約した結婚式場のオーダーに合わせて出しています。

  • 鷹の爪は、袋入り50円かもしれませんが、見せ方を工夫すると何倍かで売れます。食べない人にも、飾りになる、お守りにしたい、と買ってもらえます。

  • カラフルなカリフラワーは、大きさを揃えるのがむずかしいので、あるとき、うちの息子がバラして色違いを袋詰めしたところ、伊勢丹で「これはいい」と。「色違いを全部食べてみたいけれど、そんなにたくさんは要らない」というご要望にも応えられました。

  • トマトは40種類くらい作っていますが、選別はしません。触る回数が一番少ないのが最高の選別だ、と考えています。カラフルなので、とても人気があります。

  • 青山のファーマーズマーケットだけでなく、東京駅や錦糸町などでも、野菜や加工品を売っています。色が変わったコリンキー、巨大なズッキーニなどは、イタリアンのシェフにはむしろ好評です。そうめんカボチャ、白なす、イボなしゴーヤなどめずらしいものは、残ってきたらまとめてカゴに入れ、ラタトュイユのセットにして売ります。何が入っていてもいいですし、お買い得感が生まれます。

  • まず足を止めてもらうためは、飾り方です。丸いテーブルにカラフルな野菜をレイアウトすれば、みんなが写真を撮って、ほかの人に広めてもらえるのですから、ありがたい。ただ、普通の野菜ではむずかしいと思います。
◇野菜のワークショップ
  • 八百屋さんは相対なので食べ方を説明できます。私は料理講習会やセミナーを開いています。大きくなり過ぎた大根など規格外の野菜も無駄にしないように、「ダイスカットにしてトッピングするといい」というようなことを伝えます。

  • 黒大根をおろすと、単体では、美しいとはいえないビジュアルですが、紫、緑、黄色など、ほかの色の大根おろしと並べると楽しいし面白い。おろしでは量を食べられませんが、片栗粉を加えて大根もちにすれば、そうざいになります。

  • カラフルなトマトは半分に切ってお皿に並べ、その上に薄く切った白身魚を並べればきれいなカルパッチョになります。トマトのリコピンはオリーブ油とも相性抜群です。

  • カラフル野菜の野菜寿司は、割れた大根もニンジンも使えて、無駄が出ません。少し手をかければ、こんなに変わるということを知っていただけます。

  • 八百屋さんも、たくさん余っている野菜をそうざいや漬けものにして店で売ったらどうでしょう。1軒ではむずかしければ、5軒、10軒がまとまればいい。

  • 今年のジャガイモは20品種くらいです。品種が違うと面白いんです。色が違うジャガイモを薄い輪切りにしてスキレットに並べたら、フレンチのシェフに原価の10倍くらいの価格がつけられる、と褒められました。付加価値、とはこういうことではないでしょうか。誰でも作れるジャガイモをいかに差別化して売るかが大事です。

  • ジャガイモは、ビシソワーズ(冷製スープ)もおすすめです。40種類のジャガイモを作っていたころ、シャドークイーン、インカのめざめ、レッドムーンで色の違うビシソワーズを作りました。冷凍して一年中出せますし、そのまま売ることもできます。
◇6次産業の取り組み
  • 6次産業は面倒です。でも、市場から仕入れている八百屋さんが、残った商品を捨てることはお金を捨てるのと同じです。その「もったいない」をどうするか。オリジナリティーでは負けない工夫をすることです。

  • 私は、大量の割れたニンジンを前に「これをどうすればいいか」と考えました。日持ちさせる方法としては、冷蔵、塩蔵、酢漬けの3つ。酢を入れると発色もさらによくなりますから、酢漬けで瓶詰めにしてみよう、と思いました。青山のファーマーズマーケットで並べたとき、ディーンアンドデルーカの人が通りかかって、仕入れたい、2000本ずつ入れてほしい、と言われ、家族全員で徹夜でがんばりました。それても追いつかず、加工場を作りました。ディーンアンドデルーカが扱っていると、みなさん安心してくださる。そのうち、リッツカールトン、伊勢丹からもオファーが来ました。伊勢丹には全国のバイヤーが見に来ます。私は営業をしなくても、全国から依頼が来るようになりました。アタマを取る、というのは大切なんだな、とつくづく思いました。

  • 加工品には良品を使う必要はありません。畑で捨ててしまう小さなジャガイモが商品になります。ピクルスは、小さくて、カラフルで、見栄えが良ければ商品になります。

  • 農家はタネを播いて、育て、それをどうやって売っていくか。特殊なタネを選ぶ。隣の親父さんとは相談しない、みんなと同じものにはしないことです。農業を「なりわい」にするなら、1日の売り上げ3000円以上が目標です。

  • 葉っぱで1000万円売り上げているおばちゃんがいます。どこにでもありそうな柿の葉が1枚100円になる。やるかやらないか。農業だけではなく、他の産業でもいえます。

  • 今日の講演タイトルは、「多品目少量栽培で成功できる、小さな農家の稼ぎ方」です。小さいからこそできること、あるいは新規就農の人たちが1年目から食べられるような農業スタイルを提案したい。タネを播き、それを無駄なく出荷して、お届けする。自分の屋号を大切に守り、「あそこに行けば面白いものがある」と思ってもらう。見せ方や人間性などもあるかもしれませんが、基本は市場やスーパーにはないものを作るから、みなさんが相手にしてくれる、と思っています。

  • 大根はタネからカイワレ大根になり、もみ菜、小大根、普通の大根になります。そのまま放っておくと春にトウ立ちして菜花になり、さらに豆のようなサヤ大根ができます。スーパーで売れるのは普通の大根までですが、私はそのどの段階でも売れます。大量ではないし、説明できなければなりません。小さい農家だから可能なことです。

  • 規格なんて誰が決めたんだ、と言いたくなります。海外に野菜を視察に行くと、見た目は本当によくありません。でもオーガニックはそれでいい。日本人はきれいなものに慣れ過ぎています。少々傷があってもいいなら、農薬を使わなくても作れますが、きれいな野菜しか認めてもらえないからむずかしい。八百屋さんはお客さまといろいろな話ができますから、スーパーとはすみわけられるのではないでしょうか。

  • トマトが採れ過ぎたときは、シイタケの乾燥機を借りて、ドライトマトにします。それを瓶に入れ、オイル漬けにします。瓶に詰めるとおしゃれで付加価値がつきます。

  • ニンジンは、赤、黄色、白などを細く切り、色違いで組み合わせて瓶詰めのピクルスにしたり、花形、ハート型などの型抜きにすることもあります。2つを同じ型で抜いて入れ替えると捨てるところは出ません。カレーやパスタに型抜き野菜のピクルスが一つ入っているだけで子どもさんのテンションがあがります。家庭でもできますが、これを1個買っておけば、手間なくいつでもトッピングができて便利です。
◇農産加工のポイント
  • 農産加工のポイントは「小さなことからコツコツと」です。

  • 安心・安全はあたりまえ。設備投資はできるだけ少なく。そのぶん手間をかけましょう。

  • 誰をターゲットにするのか。地元のスーパーに置いてもらっても、もとはとれないし、自分の価値も下げてしまいます。私は東京に出さなければいけない、と思っています。

  • 高く売ることを考える。おしゃれ感、デザインも大事です。たとえば、シャインマスカットは自分のために買うには高すぎるけれど、人にあげるなら買います。若い女性がプレゼントしたい、人にあげたくなるような加工品を作ることです。

  • 白、黄色、紫の白菜があったら、紫は鍋には合いませんが、漬けものには抜群。酢を入れると発色もよくなります。黄色、白、紫の白菜の漬けものセットにすれば最高。真空パックは簡単です。1人で無理ならば何人かでやればいい。

  • みなさんもタネを播きましょう。今年からチャレンジです。今やらなければ来年もやりません。食は「人に良い」と書きます。食事は「人に良い事」です。私のような少量多品目の農家とおつきあいいただくと、八百屋さんも面白いかもしれません。高松、千葉に続いて、埼玉の深谷でも生産を始めますのでよろしくお願いします。