■2019年7月21日 第4回 ナス・マンゴー 〜 講演「ナスについて〜在来種からF1種への流れと今後の方向性」 タキイ種苗(株) 関東支店 藤田守久氏
◇ナスの種類
  • ナスは、形、サイズ、色が多種多様で、赤、緑、白のナスもあります。地方ごとに進化し、バラエティ豊かになりました。農林水産省のWebにナスの種類が写真付きで載っています。参考にしてください。

  • 大長ナスは40〜50センチになるものもあります。

  • 丸ナスは、京都の「賀茂ナス」が有名です。

  • アメリカから来た米ナスは、ヘタが緑色なのが特徴です。

  • 最も一般的なのは中長ナスです。使い勝手がよく、現在主流になっています。

  • 長ナスは、中長ナスよりも少し長めです。

  • 小丸ナスという小さなサイズのナスもあります。
タキイ種苗(株) 関東支店
藤田守久氏
◇ナスの来歴
  • ナスの原産地はインドの山奥とされています。食べられるようなものではなかった野生種を人間が改良し、可食部分を大きく、肉質を良くして今の野菜になりました。そこからいろいろなルートで日本やヨーロッパ、アメリカに広まりました。

  • ナスは『古事記』に載っているほど古くからあり、大昔に渡来した野菜です。

  • 東北に多い、短くて細いタイプのナスは、朝鮮半島から北陸に伝わり、北陸から東北に向かって広がっていったと考えられます。

  • もうひとつは中国から九州に渡ったルートで、長くて太いのが特徴です。
◇ナスの地域性
  • ナスに限らず、東と西では文化の違い、渡来した経路の違いなどで大きさが異なります。ナスは温度が必要な野菜で、四国・九州では長め、太めのナスが多く、北日本は短め。長いナスもありますが細い傾向があります 。

  • 新潟はナスの栽培面積日本一ですが、生産量はベスト5にも入らないと思います。これは、独特の地方品種が発達していることか影響していると考えられます。
◇地方野菜・在来種の時代
  • 1950年(昭和25年)以前、全国各地に特有のナスがあり、田楽向き、漬けもの向きといった特徴がありました。

  • 「賀茂ナス」や「巾着ナス」などは丸ナス。「寺島ナス(品種は「蔓細千成」)」などは卵型。現在の主流、中長から長や、「佐土原ナス」など長から大長のタイプがあります。

  • 水ナスは、ギュッと絞ると水がしたたるくらい水分が多いナスです。「黒十全」や「梨ナス」は水ナスの仲間です。

  • 在来種の長所は、さまざまな色、形、肉質があって多様性に富み、肉質に合わせて調理すると非常においしいことです。短所は栽培がむずかしく、葉と葉がこすれただけで病気が蔓延してしまう品種もあるそうです。また、収量が少ないこと。樹が弱ると実が少ししかつかず、ついてもすぐにダメになってしまう。果色が淡い、果形が不揃い、秀品率が低い、調理幅や用途が狭いなど、大量生産、大量消費には不向きなので衰退していった、といわれます。生産者に利益が出なければ、栽培は続きません。

  • 在来種の持つ多様性は遺伝資源として大変魅力です。F1の開発には素材が非常に重要で、日本は遺伝資源の宝庫です。今、国も種苗会社も遺伝資源の保存を行っています。

  • 在来種の再発掘や保存が急務です。すでに絶滅したとされる品種でも、篤農家の方がタネを持っていたり、納屋から発見されることがあります。1000粒播いて1粒だけ発芽したらそれを保存する、といった活動が公的研究機関を中心に行われています。

  • 弊社でも、国内の在来種とF1種で600点以上、野生種を含めるとナス全体で3000点ほどのタネを保存おり、その所在は一部の社員しか知らないトップシークレットです。ナスのタネは比較的長命といわれますが、保存には限界があり、栽培、採種、保管、を繰り返しています。
◇F1種時代の幕開けから普及へ
  • 1960年(昭和35年)代、高度経済成長期で食料の増産が求められ、「よい品物を大量に」をキーワードにF1が普及。作りにくく収量の少ない在来種は減少していきました。

  • 「千両ナス」は、長卵形、果形の安定性にすぐれ、果色が濃く、果皮はやわらかく、食味がよく、肉質はかたすぎず、やわらかすぎず。何にでも向く品種です。作りやすく、早生で多収であるため、急速に普及しました。1961年(昭和36年)に「千両」、1963年(昭和38年)に「千両二号」と続けて登場し、F1時代の幕が開けました。

  • 長ナスが一般的な西日本では、1965年(昭和40年)に「黒陽」が登場。極早生で多収、果色が濃く、果実の肥大がよく、肉質は粗めでやわらかいナスです。「東の千両、西の黒陽」といわれましたが、1992年(平成4年)、全国向きの「筑陽」へ移行しました。

  • 1960年代、F1種は、早生で多収、栽培が容易、色が濃い、果形の安定性と秀品率が高い(揃いがよい)ことから一気に普及しました。

  • F1種は生産性向上と生産者の所得増加にも寄与し、F1のおかげで農家が続けられた、という声もあったそうです。F1種は、ナスに限らず多収で、秀品率が高くなり、大量安定供給を可能にし、高度経済成長期の食糧と食生活を支えてきました。
◇在来種の血を引き継ぐF1
  • 丸ナスのF1種「早生大丸」は1952年(昭和27年)に発表されました。晩生で収量が少ない在来種に対し、F1は早生で、収量が多くなりました。肉質が緻密で食味がよいという品質は、在来種と変わりません 。

  • 大長ナス「庄屋大長」のF1は、在来種の晩生で色ぼけしやすい点を改良。早生で多収、果色が濃く、色ぼけしにくく、曲がった果実も少なくなりました。肉質のやわらかさ、食味のよさは変わっていません 。

  • 水ナス「紫水」は、1996年(平成8年)にF1化。在来種がもつ輸送性と色ぼけの問題を改良し、肉質が緻密で輸送性にすぐれ、果色が濃く、色ぼけしにくく、早生で多収。「水ナス質」といわれる漬けものに向く品質はそのまま維持しました。

  • 長卵形、丸ナス、大長ナス、水ナスなど、在来種の血を引き継ぎ、在来種とほぼ同様の調理や用途に使える、多様なF1種が開発されました。弊社は、日本の食文化を大切にし農業を応援したい、という思いがあります。そこを外さない品種改良がブリーダーに課せられた使命だと思っています
◇地方野菜・在来種の復活
  • 近年、在来種が復活しています。1990年(平成2年)代から、飽食の時代、グルメブーム、嗜好の高級化、多様化という流れの中で、「地方の時代」と呼ばれ、村おこしが盛んになり、道の駅、直売所などが増えました。食味重視で、他とは違うものが求められ、個性的なナスが注目されるようになりました。

  • 在来種の復活は、「あそこに行けばあのナス!」と、リピーターになってくれるのが、一番いいパターンです。たとえば、新潟県長岡特有の在来種はあの道の駅に行けばある、と、高速道路で東京から長岡に行く、という時代に突入しました 。

  • 在来種復活への追い風になったのが、地産地消の動きです。道の駅、直売所の役割は非常に大きかったと思います。

  • 情報の増加も要因です。テレビのグルメ旅番組や、雑誌、インターネットなど。特に「インスタ映え」といわれるようにSNSをいかに上手に使うかがポイントになります。

  • インターネットと宅配便のおかげで、どこからでもナスが買えます。最近は人手不足や輸送代の高騰などの問題もありますが、宅配便の果たした役割は大きいと思います。

  • 復活を遂げた例としては、大阪・泉州の水ナス。直売所や市場に出荷したり、漬けものに加工してお中元の商材になっています。また、近江の「下田ナス」もいたる所で直売しています。これは数年前の話なので、今はもっと増えているのではないでしょうか。
◇今後の方向性
  • 消費面では、高級化、多様化、地産地消の動きは変わりません。食味の向上、在来種の復活も続くと思います。

  • 生産者の高齢化が進み、作りやすい品種がより求められる時代になっています。弊社は作りやすさへの要望に対応すべく品種改良を進めており、トゲなし化、省力化、単為結果性の付与など、作業性の向上に取り組んでいます。

  • ナスのトゲは鋭く、刺さると怪我しますし、隣のナスを傷つけます。トゲなし化には、安心して作業でき、商品価値も落ちないなど、大きなメリットがあり、「千両」、「千両二号」では、初登場後約50年の2007年(平成19年)に実現。水ナス「SL紫水」のSLはトゲなしを表し、肉質や作りやすさは「紫水」と同じでトゲなしにした品種です。

  • 単為結果は、受粉しなくてもナスができます。単為結果の頭文字は「PC」。「PC筑陽」は省力化できる、と非常に喜ばれています。PCでトゲなしの品種もあります。

  • F1化したときにネーミングするのは、昔は育種をした人の特権でしたが、今は時代にマッチした名前をつけるため社内で公募したりしています。
◇終わりに
  • 流山の小学3年生が行った「紫のナゾにせまる」という実験を紹介します。ナスの実に黒い布をかけて育てたところ、色がつかなかった。そこで、ナスは太陽の光に当たることによって紫の色がつく、ということがわかった。その後が特に面白く、ナスの半分に紫外線をカットする日焼け止めを塗ると、その部分だけ色が白かった。太陽光線の中でも紫外線によって紫色になる、ということがわかった、という実験です。

  • じゃがいもやトマトもナス科ナス属の野菜です。太古、大陸はひとつだったとされます。それが移動していくうちに、ナス科はさまざまな属に変化し、どの部分を食べるかでナス、トマト、じゃがいもになっていったと考えられます。
◇質疑応答より

    Q:ナスの最適な保存方法を教えてください。
    A:暑すぎず寒すぎず、日の当たらない冷暗所がベスト。風通しがいいと乾いてしまいます。新聞紙などに包み、乾かさないように。冷蔵庫に入れるとタネが黒くなります。

    Q:F1品種の海外での採種率は? どこでタネ採りをしていますか?
    A:弊社は、原産地に一番近いところで採種するというポリシーがあります。採種率は海外のほうが多いと思います。原産地が海外の野菜、乾燥を好む野菜は多く、途中で雨が降るとタネが腐ってしまうこともあります。果菜類は暖かいところ、など世界各地の拠点で採種しています。現地の採種会社と契約を結び、日本から生産チームが現地に赴いて、確認しながら採種を進めます。育種は日本で行い、タネの増産は海外で採種し、日本で商品化する、という流れです。

    Q:海外での採種は、タネが盗まれてしまう心配はないのでしょうか?
    A:非常にむずかしい問題です。基本、採種は国内でも海外でも種子を抜き取らない、残さないという契約を結んでいます。今はDNAレベルで親がわかりますし、作物にも親の特性が出るので、育種した人はすぐわかります。もし違反があれば、生産地との信頼関係はなくなり、二度と生産できません。もともと種苗会社は、信頼を売っているともいえます。タネを見ても何の野菜かわからず、播いて成長して初めてわかる。このタネを播けばちゃんと発芽してキャベツになる、と信頼して、ご購入いただいているわけです。そういう業界なので、海外でもいろいろと対処しながら採種しています。

    Q:白や緑など、西洋系のナスが最近よく出回っている気がしますが…。
    A:グルメブームのひとつに西洋野菜ブームもあって、調理にバラエティをプラスするために海外のナスが作られるようになったのではないでしょうか。

    Q:トゲなしナスは、八百屋や農家さんにはありがたいですが、ナスにとってよくないことは起こらないのでしょうか? 品種改良はどのように行われるのですか?
    A:植物に無駄なところはひとつもなくトゲがあるのは外敵から身を守るためです。外敵を人間が排除すればトゲがなくてもいい、ということです。育種は、畑を日々観察しトゲの少ないものを見つけ、掛け合わせていった結果です。単為結果も同じで、あるときハウスで受粉していないのに実をつけているものを発見し、それをベースに何回も掛けていきました。今年弊社が新発売したカブは、葉が水菜です。それもカブと水菜を掛け合わせて、根が太って葉が水菜のものを10年かけて選びました。

    Q:新潟の「梨ナス」は正式な名前なのでしょうか?
    A:長岡野菜加工研究会は、肉質が梨のようだから「梨ナス」と説明しています。「黒十全」に手を加えたもので、品種名ではないと思います。在来種は、似たタイプでも、地域によって呼び名が違うことがあります。商標登録を取っているとしたら、販売するときは注意したほうがいいでしょう。

 

【八百屋塾2019 第4回】 挨拶講演「ナスについて〜在来種からF1種への流れと今後の方向性」勉強品目「ナス」「マンゴー」食べくらべ