■2019年5月19日 第2回 豆類・メロン 〜 講演「豆類の豆知識」 みかど協和(株) 新規ビジネス開発部 上野秀典氏
◇はじめに
  • 私は48歳、兵庫県尼崎市生まれで、現在は北海道小樽市在住です。海のそばなのでカヤックをしたり、家庭菜園が趣味です。北海道は国産ワインの醸造がブームなので、今年からブドウ栽培にチャレンジしようと思っています。

  • みかど協和株式会社は千葉とフランスに本社があります。私は新規ビジネス開発部と北海道支店を担当し、本州と北海道を行ったり来たりして、種子の育種・生産・販売、また国内外の産地を回り、農家さんや農協さん向けの栽培講習などをしています。
みかど協和(株)
新規ビジネス開発部
上野秀典氏
  • 社名は日本語ですが、外資系(フランス)種苗会社で、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど世界中でタネの育種・生産・販売をしています。グローバルなビジネスを行っていますが、株主はフランスの農家さんで、農家のみなさんに寄り添って仕事をするというのが企業ポリシーです。
◇「豆」とは
  • 豆とはマメ科植物の種子のことで、われわれが豆として食べているのはタネです。世界には650種18,000種類もの豆があります。スイートピー、タマリンドなど花や樹木も含みます。自殖性植物といって、同じ花の中のめしべ、おしべで交配できる植物です。

  • 人類にとって有用な豆は70〜80種といわれています。大きく分けて、食用豆と油糧用豆。食用豆はインゲン、エンドウ、ササゲ、ソラマメなど、炭水化物やタンパク質、糖分が多く、未成熟の状態で食べるものがほとんどです。油を搾るための油糧用豆は主にラッカセイ、ダイズ。脂質分を多く含みます。
◇豆の歴史
  • 遺跡からの出土品や、文献の記述などから、豆類の原産地は、ダイズが中国、ヒヨコマメがインド、エンドウとソラマメは地中海周辺、インゲンとラッカセイはアンデス周辺とわかっています。原産地によって、暑さや寒さに弱いといったクセがあります。

  • 豆類は自殖で増殖可能なので、優良品種の固定が比較的容易です。たとえば、エンドウマメを播いていいものができたら、採れたタネで翌年もいい豆が作れます。こうして環境(気候・土質等)に適応した品種、変化に合った優良な種子が残ってきました。

  • 豆類は生産(栽培)・保管(貯蔵性が高い)・輸送可能な食材です。大昔、保管できない肉や魚と違い、豆類は安定的な食料として、文明の発達に大きな影響を与えただけでなく、さまざまな場所に運ばれて、世界中に栽培が広がっていきました。
◇豆の種類と特徴
  • たとえば、「サヤ〇〇」と単なる「〇〇」はどう違うか、などわかりにくい点もあるので、主な豆の種類と特徴についてご説明します。
  【インゲン】
    • 断面が丸く細長い。
    • 植物体としての特徴は、つるありとつるなしがある。つるありは朝顔のようにつるが支柱などに巻きついて育つ。つるなしは高さ50〜60センチほどの木のような状態で育ち、それに莢がつく。つるありは収穫期間が長め、できたものから農家さんが手で収穫。つるなしは一斉に花が咲いて莢がつくので、機械で収穫できる。
    • 莢の形状は丸型または平型。モロッコインゲンが平莢の代表品種。
    • サヤインゲンは軟莢種、インゲン豆は種実用種。品種を使い分けている。
    • サヤインゲンは未成熟の状態の莢と実を食べるもの。タネとしては完成されていない。モロッコインゲン、ステイヤーなどが代表的なアイテム。
    • インゲン豆は、豆(乾燥子実)を食べるもの。枯れるまで置いておき、乾いた莢から豆を取り出して食べる。代表的なアイテムは金時豆、白インゲン豆など。水でもどして炊いて食べるのが面倒なので、消費が伸び悩んでいる。
  【エンドウ】
    • インゲン同様つるありとつるなしがあるが、つるありはつるの形状がインゲンとは違い、葉の先にある巻きづるのようなものでからみつく。からむ力は比較的弱く、風を受けると倒れたりするので、支柱やネットに結びつけて栽培する。
    • 莢の形状は多様。基本的には、キヌサヤのように平たくて中に豆が入っている。
    • サヤエンドウは軟莢種。キヌサヤ、スナップ、グリーンピースなどが代表的アイテムで、未成熟の状態のものを食べる。莢と実が両方食べられるのはキヌサヤとスナップ。グリーンピースは実だけを食べる。
    • 缶詰のグリーンピースは未成熟のものが多いが、欧米では乾燥子実としてのグリーンピースが多い。これはサヤエンドウではなく、エンドウ豆(硬莢種)。
  【ササゲ】
    • ササゲ、ササギ(東北のほうでの呼び方)、大角豆とも呼ばれる。
    • 見た目はインゲンに近いが、原産地や収穫適期などが違うため、別のカテゴリーに分類される。ササゲの原産地はアフリカ、インゲンは中南米。
    • つるあり、つるなしがあり、品種も多様。多くは、北海道や東北などで、農家さんが自分でタネを採って残している。
    • 未成熟な莢と実を食べるものと、乾燥した豆(乾燥子実)を食べるものがある。
    • ササゲは産地が全国に広がっていないこと、品種改良が進んでいないことから、出荷期間は7〜8月のみ(インゲンは周年)。
  【ソラマメ】
    • つるなし。鹿児島では2メートルくらいに伸ばすこともあるが、一般的には腰か胸くらいの高さ。
    • 大粒種と小粒種がある。細長くて中の実が小さい小粒種は、ヨーロッパに多い。
    • 莢は食べず、中の未成熟種子を食べる。莢ごと焼くと中のワタの部分は食べられる。トロリとなったワタをスプーンですくって食べると豆と同じような風味がする。
    • 乾燥子実を食べる場合もある。
    • ヨーロッパでは生で食べることもある。
  【エダマメ】
    • 分類的にはエダマメはダイズ。エダマメは若莢(未成熟莢)。ダイズは乾燥子実。採り遅れたエダマメをダイズにすることはない。用途に応じて品種がある。
    • エダマメには白毛豆(青豆)、茶豆、黒豆がある。
    • 白毛豆(青豆)が最も一般的で生産量も多い。うぶ毛と薄皮が白みをおび、多くは3粒莢。主産地の関東のほか全国で作られ、品種は多い。家庭菜園でも作られる。
    • 茶豆はうぶ毛と薄皮が茶色で、独特の香りと甘みがある。多くは2粒莢、ややボリューム感に欠ける。東北・北陸のダイズの消費量が多いのは、茶豆が関係しているのではないか。
    • 黒豆にはバリエーションが多く、うぶ毛の色は多様、粒は大きく、2粒莢が多い。未成熟のときの薄皮は黒かグレー。関西、特に丹波中心で、基本的には黒豆として作られており、エダマメとして出回るものは少ない。
    • ダイズとして栽培されるのはエダマメとは別品種。国産ダイズの需要が高まり、水田を野菜産地に切り替える国策もあり、米どころでのダイズ栽培が増えている。

◇産地動向
  • インゲン、エンドウともに産地の多くは鹿児島と和歌山ですが、全国で作られています。

  • 作付面積は減少が続いています。生産者の高齢化、手収穫の手間、生産資材・運賃の上昇などが原因で栽培をやめてしまう方が増えています。

  • 宮崎、北海道など、一部では面積が増えています。丈が低いつるなしタイプを刈り取る作業機器(ハーベスター)が導入され、莢から豆を外す機械もあります。

  • つるなし、機械収穫は一気に採れ、たとえば、そのまま電子レンジにかければ食べられるエダマメパックとか、冷凍むきエダマメに加工されます。むきエダマメは、ファミリーレストランなどのサラダバーで見たことがあるのではないでしょうか。

  • 冷凍インゲンは、かつてはオマーンなどからの輸入品が多かったのですが、国産志向の高まりと冷凍品の需要増で、国産が増加。富裕層をターゲットにシンガポールなどのアジアや欧州へ輸出もされています。
◇最近のトレンド
  • ボイルするだけで食べられるスナップエンドウの人気が高まっています。甘みが強く、性別や年齢に関係なく好まれます。

  • スプラウト(豆類・ハーブ類・アブラナ科)のバリエーションが増えています。機能性も注目されており、今後も増えると予想されます。

  • 豆苗の再生栽培(根元を残して切るとまた伸びてくる)がネットで話題です。エンドウの脇芽が出る性質を生かしたもので、機能性もすぐれている要注目の野菜です。

  • ナッツ類の消費が増加しています。肌にいいなど、機能性に注目が集まっているようです。無塩タイプも増え、ナッツを会社のデスクに置いている女性もいます。

  • 北日本でのラッカセイの栽培が増加しています。ゆでた生ラッカセイなど、フレッシュとしての需要が高まり、東北や北海道で栽培されるようになりました。

  • コメ余りで国も補助し、水田を野菜や果樹へ切り替える動きが増えています。比較的軽作業のダイズ・エダマメに切り替えた産地が多く、一部はハーベスターを導入しています。初夏から晩秋にかけて、各地からエダマメの入荷があると思います。

  • 欧州では「エダマメ」で通じるほど人気があります。手軽に食べられることや機能性などが注目されており、青果を冷凍品で輸出するという話も進んでいます。
◇質疑応答より

    Q:インゲンとササゲは植物的にはどう違うのですか?
    A:植物学的には大きな違いはありません。原産地が違うことから、分類上は別とされており、資材、使用できる農薬など、ルールには気をつける必要があります。

    Q:エダマメのタネがほしいという海外からの要望を断る理由は何ですか?
    A:日本の野菜品種は食味がよく、機能性にすぐれ、揃いがいいなど、レベルが高い上に、日本食ブームもあって、現地で作りたいというリクエストは多く、実際に栽培しているエリアもありますが、豆は現地で栽培し、増やすことができます。タネは初年度しか売れないとか、そこで増やして日本に輸出するようなことになったら困ります。韓国のイチゴや中国のシャインマスカットのように、品種登録されているものの持ち出しに、国も神経をとがらせており、豆は今のところはお断りしています。F1のタネは世界中に売っていますが、親の持ち出しや管理には細心の注意を払っています。

    Q:うちの店では在来のダイズを扱っています。これを買って持ち帰られると、栽培される可能性はありますよね? 防ぐ方法はないのでしょうか?
    A:海外からの観光客の方が増え、よくアジアの方から、日本の野菜のタネを求められます。アジアにある私どもの子会社や代理店で買ってほしいとお答えしますが、個人で持って帰られたら、打つ手はありません。ただ、タネ採りは経験者でないとむずかしいので、個人が家庭菜園で作る程度なら、それほど問題にはならないと思います。

    Q:「砂糖ざや」も未成熟なら莢ごと食べられますか?
    A:可能だと思いますが、豆類は加熱が不十分だと消化が悪いので、しっかり火を通してください。毒素は若莢のときにはまだ蓄積されておらず、リスクはないと思います。

    Q:お店で砂糖ざやをグリーンピースと間違えられたり、「ずいぶんかたいキヌサヤね」と言われたり、ソラマメの皮を「これは包丁で剥くの?」と聞かれたり…。昔はあたりまえに出ていたものが、近ごろはあまり売れなくなっている気がするのですが…。
    A:「砂糖ざや」というくくりの中にいくつかローカルな品種があり、タネを残すことがむずかしいものがあります。ある程度上の年代の方は豆の筋を取った経験があると思いますが、今はできるだけ調理が簡単な方向に品種改良が進められており、筋がないタイプが増えています。絶対量が減っていること、出回る時期が短いことなども原因でしょう。

    Q:砂糖ざやはスナップにとって変わられたのでしょうか?
    A:今メジャーなのは、仁村さんという方が育種したスナップです。元は普通の実採りエンドウで、その中から莢がやわらかく、よく太るものを選んでいきました。ピックアップを繰り返して純度を高めていくという育種です。

    Q:ブルームって何ですか?
    A:今日並んでいるスナップにはブルームがついているものがあります。ブルームは、植物体の表面につく白い粉のようなもので、カビや腐る原因になる水分をはじくために植物が自ら作り出すものです。手で触るとあとがつき、産地は手間かがかかります。そこで、ブルームがなくつやつやと光沢のあるスナップも開発されています。30〜40年前、キュウリはブルームのあるものだけだったのですが、今はブルームレスに品種改良されています。そのせいで味が変わった、という人もいます。

    Q:スナップだけいろいろな名前で出ている気がするのですが…?
    A:品種名の場合もあれば、商品名として産地が独自の名前をつけて売っているケースもあり、それで複雑になっているのだと思います。

    Q:茶豆というのは、ダイズになったときに茶色くなるものをいうのですか?
    A:うぶ毛や薄皮などが薄茶色い品種で、昔から東北で作られています。下処理でしっかり塩をまぶしてうぶ毛をとってから、ゆでます。味がいいので近ごろ人気です。

    Q:もやしに「緑豆」とか「ブラックマッペ」と書いてありますが、その違いは?
    A:豆(タネ)の品種が違います。

    Q:豆は自家受粉するのですよね?
    A:豆はめしべとおしべが露出しておらず、自分の花粉で実をつけます。もともとタネを維持しやすい性質があり、昔から自然に優秀な品種が残ってきました。

 

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