■2019年6月16日 第3回 和ハーブ・スイカ 〜 講演「日本の足元のたからもの」 一般社団法人和ハーブ協会 理事長 古谷暢基氏
◇はじめに
  • 私は1967年、神奈川県生まれです。北里柴三郎(「日本医療の父」で新千円札の人物)のいとこが曾祖母にあたります。医学博士、健康プロデューサーとして、和ハーブ協会理事長のほか、国際補完医療大学日本校学長なども務めています。予防医学の観点から、「健康こそが、人の幸せの基本である」と考えており、さまざまな事業を通じて、健康・医療に関して正しい選択ができる世界を目指しています。

  • 2005年に世界最古のエクササイズであり、アーユルヴェーダの運動療法と考えられるタイ式ヨガ「ルーシーダットン」を日本に導入、普及してまいりました。2009年に始まった「ダイエット検定」は医師や有名人など、受検者が10万人を超えています。さらに"日本人の宝の生活習慣"で、健康や病気予防にも大きく影響を与えるお風呂の正しい入り方などを伝える「入浴検定」も行っています。今秋には、国際連合が認証し、世界120カ国に支部を持つ「国際補完医療大学」の日本校の開校が決定しております。ここでは一般の皆様が正しい医療の選択をできるための知識や情報を教えるとともに、世界の伝統医療や補完代替医療などをお伝えしたいと考えています。
一般社団法人和ハーブ協会
理事長 古谷暢基氏
◇一般社団法人和ハーブ協会について
  • 一般社団法人和ハーブ協会は、日本人が古来、有用してきた植物=和ハーブに特化した唯一の協会として2009年に発足。検定・資格事業、出版・メディア事業、産業活性化事業、研究・開発、などを通じて、日本の有用植物=和ハーブの啓発活動を行い、次世代に「古くて新しい日本の植物文化の継承」をしていくことがそのビジョンです。今年11月に10周年の全国記念シンポジウムを開きます。なお、「和ハーブ」は私どもの登録商標であり、商業用で使用する場合は会員登録または使用契約が必要となります。

  • 研究・開発、検定・資格事業、出版・メディア事業、産業活性化事業などを通じて、和ハーブの啓発活動を行い、特に若い世代に、「古くて新しい日本の植物文化の継承」をしていきたいと考えています。

  • 一昨年『和ハーブ図鑑』を出版。新刊『PAN de WA HERB』は、和ハーブレシピ本で、今日は、この中に出ている料理を3種類ご試食いただきます。

  • 活動の一例として、和ハーブを素材にした地場商品の開発も行っています。長野県塩尻市奈良井宿の地元高級デパートと観光協会のコラボ商品「トウブキチョコ」は、奈良井宿の伝統野菜であるフキの大型種「トウブキ」を砂糖漬けしたものを使っており、発売記者会見には地元新聞やTVなどが多数詰めかけました。「カケロマジュノベーゼ」は鹿児島県加計呂麻島に生えている野生のハーブを使い、「地場もん大賞」を受賞して、フランスにも進出。岡山県鏡野町ではオメガ3を豊富に含む鹿肉と地元の和ハーブを使った「鹿肉グリーンカレー」を開発しました。800円の高級缶詰ですが地元の道の駅で大ヒットを続けています。

  • 2018年5月、日本橋三越本店に、日本初の和ハーブの生鮮コーナーが登場。ニホンハッカ、カタクリの花、野生のミツバ、カキドオシなどをおしゃれなパッケージで販売し、大きな反響を呼びました。2019年1月には、「ネオ七草がゆ」として、琉球ハーブや香りの強いものを使用した新しいスタイルの七草粥セットを販売しました。
◇「和ハーブ」とは
  • 「ハーブ」の語源は、ラテン語で「草」を意味する「Herba」。狭義では「香りや薬効が高い草(葉・茎部分)」ですが、広義は「有用植物」、役に立つ植物です。「和ハーブ」は、江戸時代以前より日本各地で有用されてきた植物、と定義しました。日本原産の野生種や栽培種のほか、外来種も含みます。

  • ベニバナは装いの和ハーブです。石油化学で色素を作ることができるようになる前は、「真紅」を抽出できる自然素材は、世界でこのベニバナ一つだけでした。筆で唇に塗る際の一回分には1000輪の花が必要な、非常に高価なものでした。

  • トリカブトの根には0.1グラムで人間が即死するほど猛毒があります。毒成分のアルカロイド「アコニチン」などは水溶性で、薄めたものは、生薬名の「附子(ぶす)」という強心剤になります。トリカブトの新芽はニリンソウやゲンノショウコそっくりです。年に数回、間違えて食べて死亡した、というニュースが出ます。

  • 和ハーブは「食」だけでなく、「薬」、「粧」(装い)、「浴」(入浴剤)、儀礼の「礼」、繊維の「繊」、環境の「環」、「色」と、日本人は古来、いろいろなところで、ほぼすべて植物から恵みをいただいて生きてきたことを見直してほしい、と思います。
◇薬食同源の観点から和ハーブを見直そう!
  • 人の消化システムは長い間の食習慣で作られており、先祖代々食べてきたものによって、腸内環境や消化酵素は違います。

  • 牛乳の主成分は「乳糖」です。乳児は消化できますが、乳糖分解する消化酵素ラクターゼは3歳前後で分泌されなくなります。しかし、太古より乳が食習慣だった北ヨーロッパ系白人、植物素材があまり手に入らなかった遊牧民など、世界の10%くらいは、成人後もラクターゼが分泌されます。

  • 海苔など紅藻類の細胞壁に存在する食物繊維「ポルフィラン」の分解酵素を持つ細菌は日本人の腸の中にしか存在しない、というフランスの生物学者による研究発表があります。何万年にわたる食習慣で形作られたのでしょう。

  • 「自分が暮らす土地のもの、季節に合ったものがよい」ということを表す言葉があります。仏教の「身土不二」は"生まれ育った土地と身体は2つと分けられない"という意味。また「三里四方に医者いらず」とは、人類誕生から大部分を占める近代的な交通機関や電気がない時代は、日没までに自分の足で回れる範囲は三里=12kmであり、人はその範囲のもので命を繋いできたという意味です。
    それはインドのアーユルヴェーダにおける「サートミヤ」"慣れ親しんだものは体に良い、生まれ育った10キロ四方のものを食べなさい"という教えに通じます。
◇いろいろな和ハーブ
  • 「日本六大薬草」と言われるのが、ゲンノショウコ、ドクダミ、センブリ、カキドオシ、タラノキ、ウラジロガシ。日本人が最も使ってきた薬草が"和のゼラニウム"ゲンノショウコです。タラノキは山菜として食べる新芽ではなく、根茎の皮が薬として使われます。

  • ここでクイズ @シナモン Aラベンダー Bタイムの3つのハーブ、並びに@レタス AハクサイBダイコンの3つの野菜のうち、それぞれ和ハーブでないものは何でしょう?正解は、双方ともAのラベンダーとハクサイ。どちらも明治時代以降に導入されました。レタスはチシャとも呼ばれ、江戸時代から食べられていた野菜です。ちなみに田んぼや畑の横に生える野生和ハーブのノゲシはレタスの祖先とされ、バター炒めがおすすめです。

  • クスノキ科のヤブニッケイ(Cinnamon japonicum)は、日本の野生種としては1種類だけの「和のシナモン」です。海岸性森林に多く、戦前は広く活用されましたが、その後、衰退。3年ほど前に高知の生産者さんにお願いして、和ハーブ協会が復活させました。ヤブニッケイは柔らかな香りで、料理やお茶素材などに汎用性が高く、ダイエットや美容によい成分が多く含まれています。和ハーブ協会の分析では、美容オイル成分とされるオメガ3が非常に多く含まれることがわかりました。またインスリン類似機能物質・MHCが含まれているという海外の研究もあります。MHCPは血中グルコースを吸収促進、グリコーゲンの合成促進作用もあり、インスリンとの協調性があって、必要以上にインスリンの生産を促さないことが確認されています。

  • イブキジャコウソウ(Thymus quinquecostatus)は、シソ科の「和のタイム」。生薬名は「百里香」で、薬草の聖地ともいわれる伊吹山では伝統的に食材や浴剤に使用してきました。特有成分のチモールは喘息等の喉の疾患に効能があるとされるほか、最近は街路樹の下に植えるカバープラントとしても注目されています。

  • 市販されている身近な和ハーブには、シソ、ミョウガ、ベニタデ、ミツバ、ワサビ、サンショウ、ショウガ、トウガラシ、ユズなどがあります。

  • 山菜として流通する和ハーブは、ワラビ、ウド、ゼンマイ、コシアブラ、アケビ、ノカンゾウなど。
    現在は流通が少ないのですが非常に価値が高い野生和ハーブとして、カタクリ、イブキジャコウソウ、カキドオシ、クロモジなど。

  • 伝統的「和薬」ハーブはドクダミ、ゲンノショウコ、チャノキ、キハダ、センブリなど。

  • シソ科のカキドオシには、ミントとバジルの中間のような芳香があります。日本六大薬草のひとつで、含まれる成分に血糖値降下作用や血圧を下げる作用があるといわれています。お茶にしても生のまま食材にしてもおいしい和ハーブです。

  • クスノキ科のクロモジ(黒文字)は楊枝が有名ですが、民俗学者の柳田國男は「日本人の香りの原点」と記しており、江戸時代には歯ブラシ、戦前までは石鹸などの香料として使われた、和アロマの代表のひとつです。今、地方に行くとクロモジが大ブームです。非常に香りがよくて薬効が高く、精油やアロマテラピーでよく使われるほか、お茶、のど飴などの商品もいろいろ開発されています。特に精油などは素材を多く消費するために、乱獲による野生種の減少を防ぐために、計画的な栽培が望まれるところです。
◇野菜と果物
  • 「野菜」とは、野生植物の味・香り・栽培効率・見た目などを改良して、栽培しやすく、食べやすくしたものです。かつて、「野菜」は野生の食用草本植物を指し、栽培する食用草本植物は「蔬菜」と呼ばれました。

  • 「山菜」は、山野に自生し、食用にする植物です。シダ植物も多く使われ、脂質やタンパク質などうま味が豊富な春の新芽を指します。

  • 「野草」も野生植物の可食部分ですが、春に限らず、「野生植物を敢えて食べる」というチャレンジ的ニュアンスや、救荒食的な意味も持つことが多いようです。

  • 「果物」とは、果実のうち食用にされるもの、単糖類やオリゴ糖が豊富で甘味を持ち、デザートやおやつとして食べることが多いものを指します。

  • モモは日本の野生原種ではありませんが、古くから食べられていた「和果」のひとつです。

  • キウイの原種、サルナシは全国各地で見かけます。地域おこしに使いたいが日持ちの悪さで悩んでいる、という相談もあります。

  • ガマズミの名は「神の実」がなまったといわれ、青森ではジョミとも呼ばれます。マタギが山で迷うとこれを食べていた、というほど栄養価が高い果実です。

  • 穀物のイネやソバも果実です。モモなどの「和果」に対して、でんぷんを多く含むため、甘味が強くなく、主食として扱われる果実なので、「和穀」として区別しています。

  • 和のスパイスの代表格、サンショウはミカンの先祖です。「スパイス」とは、辛味・香り・薬効などのある飲食用植物の茎葉以外の部位(多くは果実、根、花、樹皮など)をいい、同じ機能を持つ狭義のハーブ(茎葉)と対象語として定義しています。
◇「トンガリバリュー」のすすめ
  • 周囲から頭ひとつ抜け出たいと思ったら、「アンビバレント」と「トンガリバリュー」、という2つの視点を持ってください。

  • 「アンビバレント」とは、相反する2つの考え方・価値観が二律背反的に同時存在すること。要は「逆」です。みんながやっている月並みなことではなく、あえて逆を突きましょう、ということです。

  • 「トンガリ」とは、他が簡単に追随できない頭ひとつ抜け出た状態。ビジネスでの「トンガリバリュー」とは、市場における「絶対価値(=勝ち)」です。

  • これからの日本の食の志向は、高齢者社会に突入し健康志向がますます大きくなる中、インターネットやSNSを通じての消費者自ら選択、本質的・良質なものへの追求が行われ、定番や押しつけは通用しなくなります。その結果として、農薬・除草剤・添加物の回避、また日本そのもの・和への回帰がますます顕著になるでしょう。インバウンドと日本への国際的注目などがキーワードです。

  • 外国人観光客の訪日目的や期待を調査したところ、「日本の食事」(58.5%) 、「ショッピング」(48.5%)、「温泉」(43.4%)、「自然景観、田園風景」(41.8%)、「伝統的な景観、旧跡」(37.6%)となりました。一番の目的は食で、ベテランの旅行者が増えているため、よりマニアックな日本独自のものを求めるようになっています。

  • 富山県の立山連峰の麓に、建築家の隈研吾氏とコラボした日本初の大型ハーブ・リゾートが2019年10月にオープンいたします。機会があればぜひお立ち寄りください。

  • ミカン科のタチバナは日本原産の柑橘果樹で、とても深いストーリーを持っています。病弱な天皇を救うための"日本最古の薬"として古事記や日本書紀に記録され、現在でも皇室と深く関わる果樹です。野生種は今、高知県と静岡県に約300本が残るのみですが、奈良県で大々的な復活ロジェクトが進んでいます。野生原種として豊富なフィトケミカルを含み、ノビレチン(脳機能改善)やタンゲレチン(抗酸化)などの機能性ポリフェノールは、栽培柑橘種のウンシュウミカンなどのじつに10倍以上を含みます。スダチとミカンの中間のような味で、葉を粉にしてお茶やスパイスとしても使えます。10年後にはメジャーになっているかもしれません。

  • 伊吹山では、ドクダミ、イブキジャコウソウ、ゲンノショウコ、トウキ、チャノキなど、野生と栽培の和ハーブたちを適切に管理して育てています。農薬はいりません。このあたりの農家は薬草に詳しく、昔から10種類以上の和ハーブをブレンドしてお茶にしています。

  • 今、協会の呼びかけで、全国で新たな和ハーブ農家が急増中です。例えば滋賀では、ビニールハウス4棟を含む広大な農地で和ハーブ栽培を行う予定の農家さんもいらっしゃいます。
◇和ハーブレシピ
  • のちほどご試食いただくジェノベーゼはヨモギで作りました。

  • ヨモギは日本で最も重要な和ハーブの一つです。ビタミンC、鉄分やカルシウムなどのミネラルのほか、シネオールやテルペン系の香り成分も多く含まれ、自律神経調整効果があるとされます。また、タンニン成分の収斂効果により胃腸の粘膜の修復効果が期待でき、蚊刺されなどの皮膚薬としても効果があります。アイヌ人はデオドラント剤にしたとされ、沖縄では血圧などを下げる「サギグスイ(下げ薬)」食材として重宝され、ヨモギ入れ放題の沖縄そば屋があり、チャンプルーにも使われます。

  • 和ハーブのグリーンカレーもおすすめです。タイのグリーンカレーの素材を和の素材に置き換え、ナンプラーはしょっつる(魚醤)に、但しココナッツミルクの置き換えは豆乳ではうまくいかず、変えていません。マイルドで日本人向け、タイのグリーカレーより評判がいいくらいです。
◇終わりに
  • 和ハーブは、「日本の忘れ物であり宝物」。生活文化、健康を支えてきた日本人の生き方の歴史そのものです。現在、多くの野菜の種子が外国から入っていますが、海外由来の植物ではなく、足元のたからものにぜひ目を向けてください。
◇質疑応答より

    Q:秋田県にあるマタギの里でクロモジを使ったお茶を作った、と聞いたことがあります。薬事法の関係がいろいろむずかしいと言っていたのですが…。
    A:クロモジを使った商品開発は、広島や青森などでも盛んです。例えばその薬効を商品販売の際に伝えたい場合、"クロモジそのもの"についてHPのどこかでそれを解説するのはグレーゾーンです。但し、商品パッケージに入れるとアウトとなります。ちなみに薬事法は現在、薬機法に名称が変更されております。

    Q:フェンネルとイーチョーバーの違いは何ですか?
    A:イーチョーバーは「胃腸にいい薬」という意味の沖縄の言葉で、植物種としてはフェンネルと同じです。フェンネルはウイキョウとも呼ばれる和ハーブで、原産地は中国とされ、奈良時代には日本に伝わっていました。ただ同種でも、植物は環境に応じて二次代謝産物の生産量を変えるので、芳香成分や薬効成分は産地によって変わってきます。

    Q:山菜はよく食べ過ぎてはいけないと聞きますが、本当ですか?
    A:どんなものでも食べ過ぎはNGです。特に山菜や野草などの野生種は薬効がある反面、成分は強いため、食べ過ぎると下痢になるなどの症状が出る場合があります。ギンナンはアルカロイドを含んでおり、例えば子供では8粒以上食べると中毒の危険性があるといわれます。また、ヤマアジサイの変種であるのアマチャはカロリーゼロの天然甘味料として利用できますが、取り過ぎると気分が悪くなる人がいるようです。いずれにしても、食べ過ぎなければ大丈夫だと思います。

    Q:山椒は2時間くらいゆでてから使う、と本には書いてあります。家の山椒はゆでなくても平気なようなのですが…?
    A:基本的に熱を長く通すと、香り成分は揮発して減少します。サンショウの売りである香り成分のサンショオールは周辺の環境に対抗して作られますが、ご自宅のサンショウは香りが薄いということでしょうか?生のままでも有毒植物にはカテゴライズされませんが、人によっては量によって症状が出る場合があります。私は、ゆでずに塩漬けにします。アクと思われるサンショウのアルカロイドは水溶性なので、塩漬けや醤油漬けで出すことができます。

 

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