■2022年11月20日 第8回 じゃがいも・早生みかん  〜 勉強品目「じゃがいも」 東京青果(株) 富田雅之氏、伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏、広島青果商業協同組合 橋本佳樹氏

◇「じゃがいも」について

 [東京青果(株)  富田雅之氏より]

  • 本日の「男爵(北海道)」は、JA今金町。「男爵」は、ほかにも北見やようていなど、ほとんどのじゃがいも産地でも栽培していますが、今金の「男爵」は選別も含め素晴らしい品質だと思います。店頭に並んでいるのはほとんどが「男爵」か「メークイン」、一部「キタアカリ」。「男爵」は国内で最もメジャーな品種で、ホクホク感があり、さまざまな調理に向いています。

  • 「メークイン(北海道)」は、JA芽室町。十勝、帯広地区は土が黒いため、真っ黒なじゃがいもをよく見ると思いますが、JA芽室町はできる限りきれいにして出しています。芽が浅く、煮崩れしにくいので、調理のしやすさですぐれている品種です。しっとり・ねっとり系のじゃがいもは、どちらかというと関西のほうで好まれており、販売量も多い。果肉は白、煮物に最適です。

  • 「とうや(北海道)」は、JAきたみらい。「黄爵」はJAきたみらいのブランド名で、品種は「とうや」です。果肉は黄色、芽が浅くて皮がむきやすく、煮崩れしにくいため、煮ものなどの調理に向いています 。

  • 「きたかむい(北海道)」は、JA今金町。北海道のほかの産地でも作られています。果肉は白、「男爵」に代わるものとして期待されましたが、糖化しないとあまりおいしくない。当初はできるだけ年明けに出荷しましたが、貯蔵すると発芽懸念があり、現在は大半が年内から出荷されています。

  • 「きたあかり(北海道)」は、JAようてい。認知度は高い品種ですが、年々、生産量と出荷量は減少傾向です。他の品種に比べ、表面がザラザラしていて、水分が多く、収穫直後に出荷するとカビの懸念があり、クレーム率が多い。歩留まりも悪いです。味がいいので、今後もぜひ残したい品種です。

  • 「インカのめざめ(北海道)」は、帯広の(株)金昌。栗にたとえられるほどホクホク感があり甘みが強い品種です。ただし、収量が上がらないので、生産量がなかなか増えません。インカシリーズとして、同じような特徴を持つほかのじゃがいももいくつか出回っています。

  • 「ノーザンルビー(北海道)」、「シャドークイーン(北海道)」、「アンデスレッド(北海道)」など、参考出品の色とりどりのじゃがいもは、あまり市場流通はしていません。

  • 北海道のシストセンチュウの問題から、改良品種がいろいろと出ていますが、「男爵」に代わるものはまだありません。「ゆめいころ」は、限りなく「男爵」に近い食感、食味です。粉質系で甘みがあり、土くささは「男爵」ほどではなく、有望な品種だと思います。北見、ようていなどで一部試験栽培が始まっています。今後、種いもが確保できれば、3年後くらいには市場流通も増えてくると思います。

  • ホクホクしているとか、煮崩れしにくいとか、じゃがいもには特徴があります。八百屋さんは、お客さまから「煮ものにはどれがいい?」などと聞かれたときに答えられるでしょうが、スーパーでは何を選べばいいのかわからない方もいると思います。ぜひ、料理に合ったじゃがいもの販売をお願いします。

  • 今後、「男爵」は生産量が減ってくると思います。スーパーの総菜のコロッケなど、数年前までは「男爵いものコロッケ」などと売られていましたが、最近、コンビニエンスストアのコロッケサンドなど、品種名をうたわないで売られています。今後、「男爵」が減ってくることが影響しているのではないか、と思います。

  • 種いものできは翌年に影響が出ます。一昨年は北海道が不作だったため、昨年は種いもの供給が間に合わず、全国的に作付けが減っています。ほぼ北海道の種いもを使っているので、北海道の作柄によって日本全国の生産量が変わってくる。

  • 青果用はホクレン扱いが約20万トン流通していましたが、現在は10〜12万トンになっています。青果用は年々減少しており、加工用、特にポテトチップス用に作付をシフトしているところも多くなりました。鹿児島、長崎はどちらかというと青果用ですが、千葉、茨城は加工用にシフトしています。

  • フライドポテトはほぼ100%外国産です。

  • じゃがいもは皮をむくのが面倒、洗うとシンクが汚れるから嫌、という方もいて、販売量が減少している。今後もじゃがいものよさを伝えながら、消費量の維持、拡大に努めたいと考えています。

  • シスト抵抗性品種がいろいろ流通しています。北見の「スノーマーチ」は、楕円形で果肉は白、「男爵」に代わる品種として期待されましたが、あまり定着していません。八百屋さんとして、何を販売すればいいのか迷うことがあるかもしれませんが、年明けまで貯蔵しながら出荷が続くのは、やはり、「男爵」と「メークイン」で、一部「とうや」や「きたかむい」。これらメジャーな品種は消費者の方の認知度もありますし、私どもとしてもしっかり販売していきたいと思います。
◇「じゃがいも」の写真
男爵
(今金・北海道)
メークイン
(芽室・北海道)
黄爵
(北見・北海道)
きたかむい
(今金・北海道)
キタアカリ
(羊蹄・北海道)
ピルカ
(音更・北海道)
インカのめざめ
(芽室・北海道)
インカルージュ
(北海道)
アンデスレッド
(北海道)
デストロイヤー
(北海道)
シャドークィーン
(北海道)
ドラゴンレッド
(北海道)
ノーザンルビー
(北海道)
     

◇「伝統野菜のじゃがいも」について

 [伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より]

  • 『ジャガイモ事典』に載っている在来のじゃがいもを、日本地図にブロットしてみたところ、山間部に多く残っているという印象を受けました。

  • ヨーロッパでは、地下茎を食べる習慣がなかったため、最初はなかなか受け入れられませんでしたが、じゃがいもはエネルギー源になり、ビタミンCも含まれているので、戦争、飢餓などを経て一般に定着していきました。
伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏
  • 日本にはジャカルタを経由して入ってきました。昔は「ジャカルタ」を「ジャガタラ」と呼んでいたので、そこから「じゃがたらいも」、「じゃがいも」になったといわれています。やまいも、さといもなどがあった日本では、いもへの抵抗感はなかったのですが、少し後にさつまいもが入ってきました。さつまいもは甘いので、じゃがいもは受け入れが遅れてしまいました。さつまいもは暖かいところで育ち、じゃがいもは冷涼な地域に適しています。急傾斜地や山の中、荒れ地でも育つので、次第に広がっていきました。

  • 在来じゃがいもの地方名、たとえば、「ごしょういも」、「はっしょういも」という名前は、種いもから5倍、8倍採れることからついたと考えられます。「おたすけいも」という名前のものもあります。エネルギー源になったり、ビタミンCが豊富というのが、名前にも現れています。

  • 定着した経緯を一部ご紹介します。飛騨の荒れ地に赴任した代官、幸田善太夫は、米が作れないため信州から種いもを取り寄せて栽培を奨励し、飢饉を乗り切りました。「信濃いも」、「ぜんだいも」などと呼ばれています。また、甲斐の国に赴任した中井清太夫は、長崎から種いもを取り寄せて栽培させ、「清太いも」から、「せいだ」と呼ばれるようになりました。

  • 『ジャガイモ事典』には、甲信・東海地方を中心に収集した在来品種と遺伝資源として保存されている在来品種などをDNAマーカーで識別した表が載っています。それによると、じゃがいもは、花の色で6種類のグループに分けられます。今回はそのうちの「白(黄褐)皮・白肉・赤紫花グループ」で、これまで伝統野菜プロジェクトで取り上げたものをいくつかご紹介します。

  • 「おいねのつるいも(東京都檜原村)」は江戸東京野菜に認定されています。おいねさんという人が山梨県の都留からお嫁に来た時に種いもを持ってきたのが始まり、といわれています。檜原村の傾斜地で栽培されているのはとても小さいもので、同じものを平地で育てるとずっと大きくなります。

  • 「井川のおらんど(静岡)」は、オランダから来たというのでこの名があります。井川は、奥静といって、静岡県と長野県の境、南アルプスの入り口のところです。白、赤、紫があり、紫のものには伝来の遺伝子が含まれているといわれています。

  • 「ごうしゅいも(徳島県三好郡東祖谷山村)」は、徳島の古いほうの桂橋の先、車のナビにもないような山中、剣岳の周辺で、お年寄りが栽培していました。小さいけれどおいしいじゃがいもで、赤と白があります。土地に伝わる平家の落人伝説にちなんで、JAが「源平いも」と名付けています。

  • 昔、冨士講という信仰があり、富士山に行く人たちを富士衆と呼びました。「富士種」というじゃがいもは、山梨県の上野原で、富士衆へのお弁当として提供されたことからこの名がついたといわれます。

  • 伝統野菜プロジェクトでは、中井清太夫が「芋大明神」として甲州上野原蔵王山・龍泉寺に祀られているので、見学に行きました。郷土料理の「せいだのたまじ」は、味噌味の煮っころがしです。じゃがいもを「せいだ」、小粒を「たまじ」と呼びます。棡原の「?寿館」で、「富士種」の「せいだのたまじ」を食べましたが、なかなかおつな味でした。
◇「伝統野菜のじゃがいも」の写真
おいねのつるいも-小
(東京)
おいねのつるいも-大
(東京)
井川おらんど-赤
(静岡)
井川おらんど-白
(静岡)
富士種
(山梨)
     
 

◇広島のじゃがいもとみかんの紹介

 [広島青果商業協同組合 青年部部長 橋本佳樹氏より]

  • 今日は広島のじゃがいもとみかん2種類をお持ちしました。

  • 「安芸津馬鈴薯」は、瀬戸内の沿岸部で採れるじゃがいもで、品種は「デジマ」です。地元では人気が高く、贈答用にも使われます。サイズは2L。年に2回採れ、今日は春採れをうちの冷蔵庫で貯蔵していたものです。秋作は12月くらいに出ます。ポテトサラダやホイル焼きがおすすめです。
広島青果商業協同組合 青年部部長
橋本佳樹氏
  • みかんは瀬戸田の「五つ星」というブランド、品種は「早生みかん」。今は合併して尾道市になっていますが、生産者を限定して作っているおいしいみかんです。

  • 「大長(おうちょう)みかん」のほうはなじみがないかもしれませんが、段々畑で生産者を特定して作っている、石積みみかんです。数年前にテレビで紹介されたときは手に入りづらくなりました。品種は「早生みかん」。味が濃くてとてもおいしいですし、今の時期は皮が薄くて食べやすいと思います。
◇広島のじゃがいもとみかんの写真
安芸津馬鈴薯-出島
(広島)
五つ星
(広島)
大長
(広島)
 

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