■2022年10月16日 第7回 かき・りんご 〜 産地リモート中継「長野県山ノ内町のりんご」について

 [山ノ内町認定農業者連絡協議会 藤浦忠広氏より]

  • 12年ほど前、若手が、山ノ内町の農作物をブランド化するために、消費地、東京の勉強をすることになりました。山ノ内町と友好姉妹都市だった足立区から杉本さんを紹介していただき、現在、かなりの数の生産者が八百屋塾のみなさんとおつきあいさせていただいています。

  • この12年間に大きく変化したのは自然環境です。春が早くなったこと、着色管理に重要な10月の気温が高くなったこと。10年前は手がかじかむような寒さでしたが、今は標高の高いこの地域でも30℃近くになることがあります。りんごにとっては条件が厳しくなっていると思います。

  • 春が早いと、眠っている果樹の芽が早く動き出します。昔は4月に入らないと芽吹かなかったのが3月20日過ぎに芽吹いてしまう年が増えてきました。その後、寒さが戻ってくることがあり、果樹は花が咲いてスタートなのに、その花がやられてしまう。3年ほど前には花がほとんど咲かないこともありました。

  • 山ノ内町は長野県の他産地と何が違うのか。りんごに限らず、おいしい果物が育つ条件は、昼夜の寒暖差、日照時間、水です。山ノ内町は、こうした条件のレベルが他とはやや違います。たとえば、昼夜の寒暖差が25℃から15℃に下がる土地と、20℃から10℃に下がる土地を比較すると、同じ10℃の差でも、りんごにとっては20℃から10℃に下がるほうがいい。山ノ内町は、10月は朝5℃くらい、日中は30℃くらいになることもあり、この寒暖差が果物をおいしくしてくれます。日照については、山ノ内町は南西傾斜面にあります。角度が90度に近いほど、太陽の光が強く、有利な条件のひとつです。水は、町長が「だからうまい。清流育ち」と言っていますが、私の園のスプリンクラーは、イワナが住む奥志賀高原の清流の水を使っています。先人たちが作り上げたものを管理して、いまだにりんごに撒いています。昔の「つがるの人着りんご」は、早く採って水をかけ、りんごの温度を下げて色を着けていた。山ノ内町では、夏、夜に水をまき、りんごの温度を下げて、色づきをよくしています。

  • 山ノ内町は降雪量が多く、土壌に水が豊富に蓄えられています。落葉果樹は葉を落として根からしか養分を吸収できないのに、春に地温が上がると、芽が膨らんで花が咲きます。春先に乾燥から守り、花を咲かせ、葉を繁らせる。葉で養分が作れるようになるまで、土に水がしっかり蓄えられていることが重要です。

 [湯本将平氏より]

  • りんごの栽培上一番大事なのは、収穫後、冬に行う剪定作業です。翌年、木の先端から咲くりんごの花芽を充実させ、春の凍霜害などに強くするために枝を落とします。山ノ内町では非常にこだわって剪定に取り組んでいます。

  • 春、花芽が動き出して花が咲き、ゴールデンウィーク頃に満開になります。花が咲いたら、綿棒のようなものでひとつひとつ受粉します。受粉作業によって、丸くて大きなりんごになります。

  • 夏に向けて、摘果します。花の後に出てくる、5〜6個の実から、中心のいい実を1個残し、あとは落とします。さらに、熟した段階のりんごを見極め、傷の具合を見て、間引いていきます。

  • 収穫に向け、日光がしっかりとりんごに当たるように葉摘み作業を行います。葉が残って日陰になると味がやや薄くなるので、大事な作業です。赤みにも関係します。

  • 今年の冬はとても寒く、うちの園の積雪は腰より上ぐらいまであり、剪定も難しいくらいでしたが、3月末から急に雪が溶けて、春が早く訪れました。花芽が動き出し、4月に寒の戻りが来て、凍霜害を受けやすい状況でした。満開期は、乾燥と低温に会い、受粉後のタイミングがよくなかったのか、不受精のような形になってしまい、実どまりがよくありませんでした。今、なんとか量的には十分確保できたのですが、去年はもっとひどい状況でした。最近の気象の変化で本当に難しくなっています。

  • 夏の猛暑は、山ノ内町ではそれほどでもないのが利点です。秋は長雨、曇天もありましたが、ここにきて色づきもよくなっています。「ふじ」、「シナノスイート」も問題なく、いいものが上がってくると思います。

 [小林英晃氏より]

  • あらかじめそちらにお送りしたりんご3品種(「昂林(こうりん)」、「シナノスイート」、「秋映」)について、みなさんに試食していただきながらご紹介したいと思います。

  • 「昂林」は、品種は「早生ふじ」。「ふじ」の枝替わりで、「早生ふじ」の中でも一番多く作られています。「ふじ」は11月過ぎから始まりますが、「昂林」は10月に入るあたりから市場に出回ります。主な産地はほぼ青森県と山形県で、長野県では1%前後です。今回お送りしたものは、頭の部分がひび割れているのは、「つる割れ」という「ふじ」に起きやすい生理現象で、「昂林」には比較的出やすい。ひびの大小はありますが、約2割に出てしまいます。みなさんには味の感想とともに、このくらいのひび割れは商品としてはどうなのか、お聞かせいただけるとありがたいです。

  • りんごを作っているのは、標高600mを超える生産者さんばかり。早くから夜が冷え込み、りんごがしっかりと熟します。「昂林」の特徴はお尻が広がっている点ですが、最後がキュッとしまって他産地よりも味がのっていると思います。初採りは、地色がしっかり抜けることと決めており、早採りはしません。

  • 「シナノスイート」は、湯本さんの園地の収穫間際のもの。あと1週間弱おいて、しっかりと色と味を入れてから出荷します。今回1週間ほど早く発送したので、本来はもっと味がのっています。
昂林

シナノスイート

秋映
  • 私は昨年、長野県恒例の「うまい果物コンクール」「シナノスイートの部」で最高賞・農林水産大臣賞を受賞しました。以前、父も受賞し、山ノ内町には上位入賞者が多数います。山ノ内町が「シナノスイート」の栽培に適している最大の条件は、温度差だと思います。「シナノスイート」は、冷涼な気温により身がしまりますし、夜温の低下によって着色が優れます。長野県のデータによると、収穫前3週間、15℃が最良で、山ノ内町はこの条件に合うので、他産地に比べ、より見栄えがよく、しっかりと色が入ったりんごになります。さらに、雪の影響を受けて4月下旬からGW前後に開花。出荷目安はその130〜140日後なので、10月中旬くらになり、他産地より1〜2週間遅く、その分、夜に低温にあう確率が増えるので、味も色ものるということになります。

  • 山ノ内町の「シナノスイート」がみずみずしいのは清流の水のおかげです。あと1週間くらいで最盛期になっていきます。皮にワックスが出るとおいしいといわれますが、山ノ内町では、ワックスが出過ぎず、手に取った際にほのかに感じられるくらいの時に収穫しています。

 [湯本将平氏より]

  • 「秋映」は、収穫後1週間ほど経ったものです。私の感覚では、10月5日〜10日の間に採ると味がのってくるようで、「秋映」もほのかにワックスがかかってくると収穫どきになります。果皮が濃い赤なので、早く採りがちですが、山ノ内町では、じっくり待ってから採ることを心がけています。

  • 酸味が残るのが山ノ内町の特徴で、甘酸のバランスがいいため味が濃く感じられると思います。

 [りんご3種を試食した塾生の感想]

  • 「昂林」
    おいしい。甘い。ふじより甘い気がする。酸味が少ない。他産地のものより、味がのっている。渋みがなく、山ノ内町のほうがおいしいと思う。

  • 「シナノスイート」
    確かに、少し若いかも。ただ、噛んで食べているうちに、だんだんジュースのようになっていくのが山ノ内町のりんごらしくて非常においしかった。みずみずしい。

  • 「秋映」
    少し酸味があり、味が濃く感じられて好き。

 [山ノ内町農林課 石川政志氏より]

  • 山ノ内町のSDGsの取り組みについてご説明します。「志賀高原ユネスコエコバーク環境学習プログラム」という冊子をご覧ください。SDGs教育の代表的な取り組みが「ESD教育」で、これは持続可能な社会作りの担い手を育む教育のことです。

  • ユネスコエコバークとは、手つかずの自然を保全する一方で、持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)する地域が、ユネスコによって国際的に認定されたものです。ユネスコエコバークへの理解を深め、将来の持続可能な社会の担い手育成に町として取り組んでいます。

  • 認定地域となった山ノ内町には、国立公園志賀高原があります。標高2000m以上の山々が連なり、グリーンシーズンには豊富な高山植物があり、登山やトレッキングが楽しめます。冬はパウダースキーが有名で18あるスキー場に全国からスキー客が訪れます。「私をスキーに連れてって」という映画も志賀高原が舞台でした。

  • ユネスコエコバークは、「核心地域」「緩衝地域」「移行地域」の3つのエリアから構成されます。核心地域とは、手つかずの自然を厳格に保護するエリアです。緩衝地域は、トレッキングやスキーなど、なるべく自然環境に負荷がかからないようにしながら、観光客がレクリエーションに訪れるエリア。移行地域は、住民が社会経済活動もするエリアで、りんごは移行地域で栽培されています。

  • 山ノ内町のESD教育の具体的な内容としては、最初に環境学習の講義で関心と理解を深め、野外環境学習で実際に核心地域や緩衝地域で自然に触れ、レポートの作成、ディスカッション、ワークショップを行います。最後に、移行地域での農業体験を通して、志賀高原の大自然がどのように産業に結びついているのかを体験して学ぶプログラムになっています。興味があればぜひご参加ください。

  • 山ノ内町は農業が一大産業で、志賀高原から流れる豊富な雪解け水、イワナが住む清流の水を農業用水として使用し、高品質の農産物を生産しています。今後も人と自然が共生し、ブランド産地として、多くの方に山ノ内町のストーリーをもった果物をお楽しみいただきたいと考えています。

 [山ノ内町認定農業者連絡協議会 藤浦忠広氏より]

  • 今注目のりんごをご紹介します。約10年前に「シャインマスカット」が出て押されがちのりんご産業を、赤い果肉のりんごでテコ入れしようと、県や国、民間を含めてがんばっています。

  • 品種名は「なかののきらめき」。育成者は中野の吉家さんという方です。中野はぶどうの一大産地なので、りんごを盛り上げようと、中野市民限定で作れる赤肉のりんごとして始まりました。しかし、シャインマスカットを選ぶ生産者が多く、なかなか普及せず、2年前に長野県内であれば作れるように解禁されました。そこで、私はいち早く導入しました。高接ぎの技術を駆使して作ったところ、通常、「ふじ」は3〜4年経たないと実がならないのですが、「なかののきらめき」は翌年には実を付けました。優秀なりんごです。

  • 味としては酸味が強いので、加工用にいいのではないかといわれています。でも、私としては、糖度もあるし、酸味が好きな方は、そのまま食べても非常においしいのではないかと思っています。

  • 「なかののきらめき」は、「王林」と「いろどり」を交配したものです。吉家さんは、ほかにも、「ムーンルージュ」、「炎舞」、「なかの真紅」など、何種類もの赤い果肉のりんごを育種しており、長野県内では盛り上がっています。

  • 県でも、負けていられないと、「キルトピンク」(切るとピンクが由来)という赤い果肉のりんごを出しました。これが世の中に出回るかどうかは、みなさん方にかかっていると思いますので、みかけたらぜひお買い求めください。私の農園でも取り扱っています。

  • 11/23には、銀座にある長野県のアンテナショップで新宿高野とコラボレーションをして、赤い果肉のりんごを召し上がっていただくイベントを行います。「なかののきらめき」で絞ったジュースも販売します。

  • 「なかののきらめき」のジュースは、ピンクオパールのような非常にきれいな色で、酸味もシャープに利いたおいしいジュースです。食事にあわせても十分いける。ただ難点は、りんごの状態では赤い色は抜けませんが、加工品にすると3〜4カ月で赤が茶色になってしまいます。これが大問題で、11月中旬に絞るので、私の農園では2月いっぱいで販売は終了。限定の予約生産的な商品になっています。

  • まだあまり出回っているりんごではないので、ジュースもターゲットを絞った商品というか、価格もそれなりに高めなのですが。生産者の努力に報いるためにもまずはそれくらいで始めたい。当然、今後、増えてくれば値段は下がると思います。

  • 回りが真っピンクで中が白いので空洞化しているように見えるかもしれませんが、そうではありません。ぜひ一度食べていただきたいりんごです。

  • 私の農園では、ほかに、「ムーンルージュ」も採れます。こちらは甘いです。保証はできませんが、蜜も入るりんごです。

  • 「なかののきらめき」は相当赤が深く入るりんごで、なおかつ、皮が色づくのと同じ理屈なので、標高の高い山ノ内町ではより赤が深く入ります。標高が低いと赤が入りにくいといわれています。ジュースを絞るとき、小布施の会社でやってもらったのですが、小布施の生産者が持ち込んだものはそれほど赤くなかったようで、私のりんごを絞ってタンクからジュースが出てきたとき歓声が上がったと聞きました。山ノ内町は、赤肉についても産地として適地だと思っています。

  • 山ノ内町の農産物のご購入を希望される方は、窓口として役場の石川さんを通していただけると助かります。
 

【八百屋塾2022 第7回】 挨拶講演「かきの甘渋性および品種育成について」勉強品目「かき」産地リモート中継食べくらべ