■2022年7月24日 第4回 なす・プラム 〜 講演「なすの品種改良について」 タキイ種苗(株) 関東支店 奥原和武氏
◇はじめに
  • タキイ種苗(株)は、野菜や花の品種改良を行い、そのタネを販売している会社です。

  • 本日は、なすの品種改良についてお話します。
タキイ種苗(株) 関東支店
奥原和武氏
◇なすの来歴、住みやすい環境
  • なすの原産国はインドと推定されています。非常に暖かく多湿なところです。

  • 日本に渡来した歴史は古く、天正勝宝2年(705年)に伝わったという記録があります。飛鳥時代、聖徳太子の時代です。

  • 「秋なすは嫁に食わすな」、「一富士二鷹三茄子」など、なすに関することわざは多く、日本文化に定着していることがわかります。

  • なすは、果菜類の中でも高温性の作物です。 生育適温は、昼28〜32℃、夜間18〜25℃。最低限界が7〜8℃で、霜には非常に弱くマイナス1〜マイナス2℃で凍死します。最高限界は高く、45℃です。
◇なすの種類
  • なすは、飛鳥時代後期に日本に伝わって以来、全国各地に広まりました。それらが地域に根ざして、いまだに栽培されているのは素晴らしいことだと思います。

  • 長いものや丸いもの、大きいものから小さいものまで、さまざまな種類があります。九州は長いものが多く、京都や石川には丸いものがあります。東北は長いものもあれば、丸いものもあります。

  • なすは高温性の作物で、東北の気候はあまり適していません。同じ長いものでも、九州では晩生といって、最初に木を大きく育ててからなり出すタイプのものを大きくして採ります。東北は夏が短いので短期間でたくさんなるもの、また、木に負担がかからないように、小さいうちに採ります。このように、気候風土に合った品種や栽培方法が確立しています。

  • 長卵形のなすは、煮ても焼いても漬けてもいいですし、栽培しやすいので、非常に多く作られています。米なすは、田楽にするとおいしいなすです。東北では、小なすの漬けものが好まれます。丸なすは、京都や、京都に縁の深い石川県などで郷土料理として親しまれています。
◇在来種の改良
  • 長なすの「筑陽」は、福岡県で多く作られています。従来の長なす「黒陽」は、なすとしては低温性に優れますが、首細尻太で肉質が粗く不均一など、秀品率が不安定でした。これに夏秋なすを掛け合わせて、品質を向上させたのが「筑陽」です。育種のむずかしさは、いかに「いいとこどり」ができるか。高温期の草勢の安定を狙うと、低温期には悪いパフォーマンスになります。形や肉質をよくしようとすると、低温期のパフォーマンスが悪くなりやすい。おいしさや見た目のために、色ツヤをよくしたり果皮を薄くすると、日焼けのようなものが多くなったりします。このあたりがむずかしく、逆にやりがいもあります。こうした努力の甲斐あって、今は東北でも「筑陽」が使われるほど全国区になりました。

  • とげなしなすは、とげをなくした品種です。収穫時の安全だけでなく、箱のなかでとげが傷つけ品質を落とすようなことがなくなりました。

  • 「SL紫水」は、漬けものに特化した水なす品種で、手でギュっと絞れるくらい水分含量が高いのが特徴です。大阪や新潟には、昔から水なす文化があります。「SL紫水」は、より漬けものに合うように肉質を緻密にし、皮をやや丈夫にして輸送性を向上させ、とげなしにしました。

  • 米なすは、海外由来の品種です。もともと、着果やテリ、日持ちはよいのですが、晩生で成り出しが遅く、収穫までに時間がかかりました。個数が採れず農家さんに敬遠されますので、改良して早生にしたのが、「くろわし」です。米なすの中では初期の収量が多く、草勢が強くなり過ぎず、作りやすい。露地だけではなくハウス栽培にも適応するので、周年で定着してきました。

  • 大長なすは、強勢で耐暑性がありますが、晩生で収量が少なく、色ボケしやすかった。この点を改良したものが「庄屋大長」です。非常に皮がやわらかく、刻んで漬けもので食べてもおいしいなすです。

  • 「PC」は単為結果性を持つ品種です。実がなるには受粉する必要があります。通常はハチを使ったり、ホルモン処理をしますが、単為結果性であれば何もしなくても実をつけてくれます。そこで、いろいろなタイプのなすに単為結果性にしています。初期のものが「PC筑陽」です。

  • 従来の単為結果の遺伝子は米なす由来でした。大葉で強勢、低温や高温によって発現が不安定で、果皮がかたくなりやすかったので、異なる遺伝子で単為結果性を持たせたのが「PC筑陽」です。受粉しないで実がなるため、タネが入りません。カット面が見える形態で展示する場合、タネが黒ずんできますから、いつまでもカット面が白いというのは副産物としてよかったと思っています。

  • 「PC鶴丸」は、最新の長卵形品種です。弊社の「千両」、「千両二号」などのタイプに、単為結果性をもたせた品種です。関東では、長卵形のなすは、「千両」、「千両二号」より少し皮がかたくて流通性のいい、渡辺採種場の「式部」や「くろべえ」が主流です。「PC鶴丸」は、果実がかためで店もちがよいのも特徴で、群馬県や千葉県のハウス主要産地の今作約30%で導入され、便利なものとして認めていただいていますが、着果がよすぎると弱ってしまうなど、それなりにクセもあります。

  • 「PC鶴丸」は、つやなし果、石なす、ぶく果、すじ果などの発生は少ないのですが、がく枯れ、がく割れ、日焼け果、舌出し果、花傷などの現象は「式部」より多いのではないか、という声もあります。

  • 果焼け、がく枯れは、いわゆるやけどで、4〜5月、季節の変わりめに出やすい症状です。雨が続いたり寒かったりしてハウスを閉めたあと、突然晴れて高温になったり、強い光が直接当たったりすると出るので、ハウスを開けてかために作ってください、とお願いしています。

  • がく割れは、ホルモン濃度が高いと出る症状です。肥大が早くなり、果皮の伸びがついていけなくなって、裂けてしまう。「PC鶴丸」はどんな状況でもほぼ確実に着果するのですが、つねに着果肥大ホルモンが駆け巡っていると、過剰に反応して弊害になります。水を潤沢にやることで果皮の伸縮性を維持すれば、防ぐことができます。

  • 舌出し果(てんぐ果)は、市場には出回りません。花芽分化期のチッソ過剰が原因なので、一度に大量に肥料をやらないで、小分けにすると減らすことができます。「PC鶴丸」は、どんどんなる品種ですが、肥料をあげすぎると舌出し果が発生することもあります。

  • 単為結果性ではないなすの場合、ハウス内にハチを飛ばしますが、結構コストがかかりますし、思うように飛ばないこともあります。ハウス内のハチ以外の害虫を駆除するために薬剤をまくと、ハチまで死んでしまうこともあります。また、ハチに刺されると、アレルギー体質の方は危険です。そういう面からも、単為結果がいい、ということになります。

  • 通常は交配すると実が膨らみ出し、花びらは自然に取れますが、単為結果の場合は受粉前から肥大が始まるので、花びらがついたままになることがあり、灰色かび病や花傷の原因になります。これを防ぐには、物理的に古くなった花弁を除去するか、なるべくハウスを開ける、または自然由来の乾燥材で花びらにかびがつかないようにします。
◇なすの出荷量と市場単価の推移
  • なすの出荷量は、2002年から減少しており、消費量は下がっています。ただ、市場単価は2014年から上昇傾向にあります。トマトと比較してみると、ミニトマトの単価は高くなり、高糖度トマトも出ていますが、大玉に関しては、油代も高く、特に冬春トマトは相当厳しい状況です。これに比べ、なすは単価が取れている作物だと思います。

  • 温暖化で確実に暑くなってきています。抑制トマトは今が植える時期ですが、トマトはアンデス原産なので暑さは苦手な果菜類です。暑いさなかに植える作柄は毎年苦戦しており、黄化葉巻病も発生したりします。そこで、農家さんに、なすはインド原産で高温に強いので、抑制トマトの代わりに作るご提案をしています。
◇なす栽培の豆知識
  • なすの花は、子房から柱頭が伸び、その周りを雄しべがぐるりと取り囲んでいます。この柱頭の長さが問題で、雌しべが雄しべより長い「長花柱花」が、いいなすをたくさん採る上で非常に重要なポイントです。なすの花は下を向いて咲きますから、柱頭が雄しべより長ければ、花粉は自然に下に落ちて柱頭につき、受粉できる。一方、雄しべより柱頭が短いと、花粉は柱頭につかず、肥大しにくい。「石なす」といいますが、皮がかたくてなかなか大きくなりません。

  • つやなし果(ボケナス)は、潅水不足が原因です。

  • ダニにも要注意です。ヘタが白くガサガサしていたりするのは、ダニにやられていることが多い。ルーペでも見えないくらいの小さなものもいます。高温乾燥で特に出やすくなります。
◇質疑応答より

    Q:「紫水」は水なす、ということですが、「泉州水なす」と関係があるのですか?
    A:「紫水」のもとは、「水なす」という品種です。それを改良しました。大阪の「泉州水なす」、新潟の「黒十全」などは非常にナイーブで、一般の方が栽培しようとしてもハードルが高い。そのハードルを下げようと開発したのが「紫水」です。

    Q:なすの保存法を教えてください。
    A:ある程度湿度があって低温、つまり、冷蔵庫の野菜室が理想的な保存場所です。温度が管理できなければ、濡れた新聞紙で湿度を保つのも有効です。冷やしてから急に温かいところに、また冷やすというのが最もよくない。常温の部屋に置いたほうがまだましかもしれません。産地によって予冷をしたり、しなかったりするので、注意してください。予冷したものを常温で置くのは避けたほうがいいです。

    Q:昔は、なすは冷蔵庫に入れないほうがいい、といわれていましたが違うんですね?
    A:なすを外に置くと乾燥してしなびてしまいます。FGフィルムやビニール袋に入れて、冷蔵庫の野菜室がいいと思います。

    Q:腐ってしまうのはどのような原因が考えられますか?
    A:切るときに傷口ができますが、そこが乾いていなかったり、トゲが刺さるなどで傷があると、そこから腐敗が起きることもあります。

    Q:先日買ったなすが溶けてしまいました。写真がありますが、どのような原因が考えられますか?
    A:見た目にけっこう古い感じがします。輸送して手元に届くまでの間に、冷やしてから暑いところに放置したことなどが考えられます。

    Q:なすの機能性について教えてください。
    A:なすには、カリウムが豊富に含まれており、塩分の摂りすぎを調整する機能があるといわれます。食物繊維には、お通じをよくする作用があるとされます。濃い紫色の色素は「ナスニン」といい、アントシアニン色素です。抗酸化作用があり、細胞が酸素で傷つくのを防ぐ効果があるといわれています。また、造血ビタミンとも呼ばれる葉酸も含まれており、貧血気味の方や妊婦さんにおすすめです。なすは油との相性がいいので、ぜひ油炒めなどでたくさん食べて、夏を乗り切ってください。

    Q:タキイ種苗さんの機能性成分が豊富な野菜のシリーズになすはありますか?
    A:手持ちの素材の中で、これは、と思うものについては、機能性成分を調べていますが、なすときゅうりに関してはなかなかむずかしく、今のところは、進めていません。機能性成分の多い弊社の野菜のシリーズ「ファイトリッチ」で、随時、新しい品種がご提供できるよう、引き続きがんばります。

    Q:ぼけなすと、ぼけていないなすで、食味の違いはありますか?
    A:見た目にツヤがないものを「ぼけなす」といい、栽培過程でかん水量が少ないと出る症状です。水分含量が少なくしなびやすいですし、すぐに食べていただいてもあまりおいしくない、と思います。

    Q:なすを栽培しています。今年はテントウムシモドキの被害が多かった。何か対策はありますか?
    A:暑い時期なので害虫被害も多くなります。テントウムシモドキの防除には、薬剤散布でしょうか。生産現場でも、登録されている農薬で対応しています。虫自体は大きいため、見つけたら手で取り除くのもいいのではないかと思います。

 

【八百屋塾2022 第4回】 挨拶講演「なすの品種改良について」勉強品目「なす・プラム」